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左馬之助の樹徳

2013.03.14

左馬之助の水滴

 

 窓を開けると、左馬之助がいる。深呼吸をし、まず50回スクワットをする。

 と書くと、なんのこっちゃ? と思うだろうが、上の写真のようにケヤキの左馬之助である。住まいは新宿御苑の外苑西通り近く。少なくとも人間が見ている時間帯は、一歩たりとも動かない。

 私の師匠は、田口佳史先生と植物であると書いたことがあるが、植物のなかでは特にこの左馬之助に世話になっている。本来なら、「左馬之助先生」と尊称をつけなければならないほどの方である。

 なにしろ、とびきりの不動心をお持ちだ。ちょっとのことでは動じない。「賢者は称賛にも批判にも動揺しない」という言葉通りである。若い頃、そうとう精神と肉体を鍛錬したにちがいない。

 ところで、なぜか幹は首のあたりでポッキリと折れている。台風に直撃されたのか、あるいは落雷を受けたのか。その部分から小さな枝が上空に向かって伸びているものの、痛々しいことに変わりはない。しかし、それでもネガティブなことはいっさい言わないからエライ。

 さらに、この先生は、風情もある。季節の変化に合わせて表情を変えるのは得意中の得意だ。もうすぐ緑の葉を生い茂らせるはずだし、夏になれば涼しい風を吹かせてくれる。秋には衣替えをし、やがてストリップショーまで演じてくれる。雨の後は水滴を放さず、ご覧のように枝にはべらせることができる。まさに匠の技である。

 そんな左馬之助に、今までどれだけのヒントをもらったことか。もちろん、具体的な言葉によるものではない。しかし、時として、言葉よりはるかに明確なメッセージをくれることがある。

 「道の道とすべきは常道に非ず」

 『老子』の最初は上のような文章で始まるが、つまり、これがこの世を統べる道ですよと説明したとたん、それはもうすでに道ではないという意味。言葉で伝えられるものには限界があるということだろう。そう思うと、言葉による伝達に多くを頼っている私の仕事はどうなんだ? ということにもなるのだが、もちろん、言葉の有効性を疑っているわけではない。

 今、とても残念なのは、現代人の99%以上が、忙しさにかまけて自然からのメッセージを受け取ることを怠っていること(あくまでも推測だが)。これは田舎に住んでいるか都会に住んでいるかということとは関係がない。自然に囲まれていても五感の扉を閉じていたら自然とは無縁に等しいし、都会に住んでいようとも積極的に自然を求めれば、自然はその恵みを惜しみなく与えてくれる。

 私にとって、その代表格が左馬之助なのである。

 (130314 第408回 写真は、新宿御苑に生きる左馬之助)

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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