利害得失からどれだけ離れられるか
エネルギーが尽き果てるまで仕事に打ち込んだことは、これまでに何度かある。コンパス・ポイント創業の頃、『Japanist』を発刊した頃、歴史小説『紺碧の将』を書き上げた頃……。今回、67歳を目前にして、再び〝やり切った〟感を味わうことができた。
5年以上にわたって『Japanist』に気骨のある文章を提供してくれた近藤隆雄さんが昨年4月、この世を去った。彼は人生の後半、若いリーダーを育成することを使命とし、サムライ塾を立ち上げ、魂を注いだ。現代の社会通念に照らせば常軌を逸しているとしか言えない指導によって、約120名の塾生の多くが起業家・政治家などとして新たな人生を切り拓いている。まさしく現代の松下村塾といえる。
サムライ塾の主要メンバーたちから、近藤さんの本をまとめたいと相談があったのは昨年の秋。命日までに完成させると決意して資料の読み込みに取り掛かったのが12月上旬。丹念に要点を整理し、原稿に着手したのが同月22日。以来、ずっと書き続けてきた。途中、電池切れになったことはあるが(「電池切れになる前に」)、充足感たっぷりの3ヵ月だった。
本書の構成は、
第1章 近藤隆雄の人物像
第2章 サムライ塾の風景
第3章 近藤隆雄を知る5人のインタビュー
第4章 サムライ塾生の声
第5章 『Japanist』連載の日本論
近藤さんは初めて会った若者に、「おまえは何者なのか、説明してみろ」と威圧感たっぷりに問いかける。問われた者の大半は、学歴や職業などの肩書説明に終始する。すると「それではおまえがどんな人間なのかわからない。わかったのはおまえが何も考えないで生きているということだ」とバッサリ。そのうえで「何のために生まれ、これから何をするのか」をとことん考えさせ、魂と魂のぶつかり合いによって若者の心を揺さぶり、心に火を灯した。
近藤さんは国際ビジネス畑で成功し、禅をはじめとした東洋思想も深く学んでいる。歴史や文学にも造詣が深い。祖母直伝の〝異端の思想〟も心身に染み付いていた。そんな彼の指導法は豪快で懐が深く、人間関係がますます淡白になる昨今、天然記念物並みの希少価値がある。
彼の特長は多々あるが、47歳でバドワイザー・ジャパンを退職してから、ほぼ収入を得るための仕事をしていなかったこともそのひとつであろう。晩年の14年間、フルに時間を使ってサムライ塾に尽力したが、いっさい報酬を受け取っていない。それが可能だったのは、それまでに充分稼いだからかもしれないが、とはいえ、なかなかできることではない。
本文に「いかに損得を超えた価値観を育むか。人間としてのスケールは、利害得失からどれだけ離れられるかでほぼ決まると言っていい」と書いたが、自己の利益をどれだけ相手の利益に転換できるか、が重要だ。
今回取材した人たちは口々に語った。近藤隆雄が死んだという気がしないと。訊きたいことがあれば、心のなかで問いかける。すると「近藤さんならこう答えるはず」と思うのだと。それこそが、「人の心のなかで生き続ける」ということだろう。そういう意味で、近藤隆雄は数十年(あるいは百数十年)生き延びることができるともいえる。そんな人間関係をたくさん築くことができた近藤さんは幸せな人だったと思う。もちろん、その恩恵をたっぷり受けた塾生たちは言わずもがなだ。
※本書の出版元はサムライリーダー出版です。弊社のショッピングサイトでも扱う予定ですが、準備が整うまでしばらくお待ちください。
に直接メールを送っていただければ、発送いたします(後日、郵便振替払い)
(260408 第1310回)
髙久多樂の新刊『紺碧の将』発売中
https://www.compass-point.jp/book/konpeki.html
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