人生を変転させる3つの要素
66年以上も生きていると、いろいろなことがわかってくる。18年間の雑誌編集で数百人もの人に取材し、身の周りの人たちをつぶさに見るうち、ある一定の法則性が見えるようになってきた。
とりわけ人生を暗転させる要因となるものが何なのか、見えてきたように思う。平たく言えば、それは人間関係・金・健康の3つに集約される。若い頃と壮・老年期ではその順位が入れ替わるものの、ほぼこの3つと断言していい。反対に人生がうまくいっている人は、表面的にそれぞれのやり方は異なるように見えるが、よくよく観察すれば、その3つが順境だから人生がうまくいっていると映る。
とはいえ、その3つの手綱をひくのはそう簡単なことではない。ひとくちに人間関係と言っても、ただ身の周りの人たちを大切にすればいいというものではない。神サマがわれわれに課したハードルは存外高いのだ。
拙著『葉っぱは見えるが根っこは見えない』に詳しく書いたが、人間には住所がふたつある。ひとつは住まい、もうひとつは人間の種類で分けた居所。たとえば詐欺グループの首領のような人と深く付き合うことになれば、遠からず転落するのは明らか。そういうゾーンに入らないよう気をつけると併せ、学んで自分を高め、〝住所〟を上げていくことが求められる。
他の2つの項目、金と健康についてもそう簡単ではない。仕事のスキルを高め、なるべく病気にならない生活を続けることがいかに難しいかは、世間を見渡せばわかることだ。
上に揚げた3つの要素はそれぞれ深く連関し合っている。そういう意味で、根っこはひとつといえる。人間関係が悪くなればおのずと収入が減り、気持ちが塞ぎこんで病気になる確率が高まる。病気になればますます人と関わる機会が減り、仕事もできないからさらに収入が減る。あげく治療費が生活を圧迫する。自分はもちろん家族など身の周りの人たちの精神状態にも悪影響を与える。家族のひとりの人生が破綻することによって家族全体が苦境に陥るのはしばしば見られる例だ。
では、そうならないようにするにはどうすればいいのか。さらに、充実した人生をおくるにはどうすればいいのか。それこそが人間にとって最大の課題であり、かつ醍醐味でもあるといえる。
答えは「学び」しかないと心得る。一にも二にも学ぶこと。それに尽きる。それを怠った人に、意外な落としが待ち受けている。しかも、ただ学べばいいというものではない。「知行合一」、いかに学んだことを実生活に活かすことができるか、それこそが〝肝〟と言っていいだろう。
幕末から明治初期にかけて活躍した人たちの多くは、陽明学を学んでいた。「学び→実践」の繰り返しによって、人間が短期間にどれほど変わることができるかを証明してくれた。
ね、諭吉さん。
(251019 第1293回)
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