大人になっても子供の目と心を
宇都宮美術館で絵本作家・荒井良二氏の「new born」展を見た。荒井さんは多くの絵本を描いているが、活動は絵本だけにとどまらず、絵画・音楽・舞台美術など広範にわたっている。
一見、子供の絵のようでもあるが、つぶさに見れば、卓越した画法と斬新な色彩感覚によって緻密に表現されているのがわかる。絵そのものが生き物のようでもあるし、絵からさまざまな音が聞こえてくるような感覚を覚える。
ポスターに「いつも しらないところへ たびするきぶんだった」というコピーがある。荒井さんはこういう感覚の持ち主だから、このような画風を確立することができたのだろう。
私はつねづね「世界と世間を広げる」ことが重要だと思っている。この場合の「世界」とは知らなかったことを体験すること、「世間」とは会ったことのない人に出会うこと。この二つが停滞すると、人は淀んでいく。いつも同じ、狭い空間で生活し、同じ人としか会わない。これでは発展しようがない。仮に同じ空間で生きても、未知のものと遭遇することはできる。
……とまあ、理屈は述べたものの、無心に作品を眺めれば、なにかを感じるはず。ただ惜しむらくは地方美術館の哀しさで、来場者は美術館のスタッフの半分ほどしかいなかった。もったいない。
(250810 第1283回)
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