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いい仕事場には、いい気の流れ

2012.03.09

 先日、取材のため、大田区にある北嶋絞製作所を訪れた。

 絞りといっても、「絞り染め」の絞りではなく、金属の絞りである。「へら」という道具を使って、金属の板を湾曲させていくのだ。小さいものでは容器の蓋、大きいものではパラボラアンテナや宇宙ロケットの燃料タンクの先端など、いろいろなものを絞っている。

 北嶋絞製作所は、その分野において、世界的な技術力を有している。社員20人ほどの小さな町工場だが、この会社でしか作れないものがあるので、価格競争に巻き込まれていない。「ウチはできないので、よそに頼んで」と言われたらぐうの音もでないのだ。

 にもかかわらず、この会社はどんな難題を突きつけられても、「できない」とは言わないそうだ。よそができないことをやることで技術力が高まり、信用も社員のモチベーションも高まるのだという。

 ここに大きなヒントがある。つまり、「大勢が参加する土俵とは異なる土俵を、いかにつくるか」。皆と同じことをしているだけでは、やがて価格競争になる。行き着く果ては、殺伐とした消耗戦だろう。「三方良し」どころか、勝者も敗者もない世界。おまけに、世の中にとっても、けっして良くはない。

 先日、ある商社の実態を聞いた。コメが不足すれば、買い占めに走るという。皆が困って価格が上がったところで、大量に売りさばく。同じ日本人とは思えない。そんなことをして大儲けをしている連中がいるという。しかも、名前は誰が聞いてもわかるような大企業だ。社員は、すべてエリートだろう。いい大学を出て、競争を勝ち抜いてその会社に入って……。しかし、その後がひどい。ハイエナだって、そんなひどいことはしない。

 「人間ほどひどい生き物はいない。人間の行いを見たら、鬼だって怖くなって逃げ出す」とは、黒澤明の名作『羅生門』のなかの台詞だが、その通りだと思う。

 

 話がそれた。

 いいモノをつくっているモノづくりの現場に行くと、いい空気が流れているのがわかる。宮大工の現場もそうだ。しかし、人を不幸にする仕事の現場は、その真逆だ。どんなに売り上げが大きくても、どんなに有名でも、どんなに給料が良くても、どんなに人気就職先ランキングが高くても、そういうところに身を置く人たちは可哀想だ。だって、仕事を通じて得られる本物の歓びを味わうことなく、一生を終えるのだから。

 前回、紹介したエアロコンセプトの菅野敬一さんが経営する工場も今回の北嶋絞製作所も、じつに心地よい空気が流れている。

 いいモノを作っているモノづくりの現場をもう一度、見直そうよ。

(120309 第324回 写真は、北嶋絞製作所の社員たちが、パラボラアンテナを絞っているところ)

 

 

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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