時間軸の一国二制度
木曽駒ケ岳登山のため(実際には登頂していないが)、駒ヶ根駅に降り立ったときのことである。いきなりタイムスリップしたかのような感覚に陥った。この路線は乗降客など滅多にいないが、駒ヶ根駅は木曽駒ケ岳を目指す人が降りる駅なのである。問題は、この駅の改札が「ICカード使用不可」だということ。
私は東京駅から当駅まで紙の切符を買っていたから問題なかったが、少なくない数の乗客がICカードで改札をくぐっていたようだ。
そのため、精算する必要がある。なんとその電車はワンマンで、運転手が精算係も兼ねている。一人ひとり、入場した駅の履歴をチェックし、現金で精算するのだが、細かいお釣りも発生するし、そもそも現金を持っていない人もいる。私は早々と降車したものの、改札口は線路を渡った反対側にある。電車が発車しないことには線路を渡れない。
結局、全員が降りるまで10分以上かかった。その間、カンカンという音は鳴りっぱなし。近くの踏切は閉じたまま。それでも誰も慌てている様子はない。
なんだろう、このスローモーションな光景は。常日頃、都内の電車はじつにシステマティックに動いている。ほとんどの路線で、3〜5分間隔で運行している。停車時間も厳密に守られている。数秒の遅れがやがて数分の遅れになり、「ダイヤが乱れる」という事態になるからだ。
ある記憶がよみがえった。長崎の小さな駅でのこと。列車が走り始めるや、すぐに停車した。なんと駆け足でホームに滑り込んできた数人の学生を待つためであった。島根ではふつうの乗合バスの運転手席近くに陣取ったおばあちゃんが、停留所で停めた運転手に向かって「もっと向こうまで行って!」と指示し、運転手はさも当たり前のように「はい」と言ってバスを動かしていた。まるでタクシーである。
都市部と過疎地、時間の感覚はまるで一国二制度である。これはこれでおもしろい。
(260831 第1333回 写真は駒ヶ根駅。改札口は線路を渡った側のホームにある)
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