音楽を食べて大きくなった
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紺碧の将

陽気な国に生まれた、蕩けるような歌声

file.047『フィリッパ・ジョルダーノ』フィリッパ・ジョルダーノ

 フィリッパ・ジョルダーノの歌を聴いていると、歌のウマい・ヘタを左右する一番の要因はなんなのかと思う。フィリッパが取り上げる曲は、いわゆるオペラ・アリアなど難曲がほとんど。彼女は声楽の教育を受けたであろうから、難曲に挑む際もキーを下げたりはしない。しかし、マイクなしで大きな会場の隅々まで自分の声を轟かせるような声量はもっていない。オペラ界の第一線で活躍する歌手たちと比べれば、大人と子供ほどの差と言っていい。

 しかし、では彼女の歌が劣っているかといえば、そうとも言えない。いや、むしろ表現力において勝っているところさえある。「そうだよな、やっぱりこのアリアはこういうふうに歌うべきだよな」と妙に納得してしまうことがたびたびあるのだ。

 フィリッパは1974年、イタリアのシチリア島でバリトン歌手の父とメゾソプラノ歌手の母の間に生まれた。祖父はカントーネと呼ばれるシチリアの伝統的なストリート・ミュージシャンの最後の世代で、フィリッパに多大な影響を与えた。また、兄はチェリスト、姉はピアニスト、叔父もオペラ歌手という音楽一家である。歌の国に生まれ、音楽が満ち溢れる家庭に育ったということからして、豊かで多彩な表現力を培う環境はじゅうぶんにあった。

 フィリッパの歌唱力を培ったのは、伝統的なクラシック教育と並行して、マドンナなどポップスターに親しんでいたということが大きいと考えられる。つまり、クラシックとポップスの境界あたりで、双方のいいところを取り入れつつ、独自のカラーをつくったのだ。だから、ある曲では声楽に基づいて歌うと思えば、ある曲ではポップに歌うこともできる。

 クラシック歌手が歌うポップナンバーは、大半がぎごちない。ふだんスーツしか着ていない人が、ジーンズを穿くような違和感がある。その点、フィリッパはポップなメロディーも自家薬籠中の物にしている。これはなかなかできないことである。

 本作『フィリッパ・ジョルダーノ(Filippa Giordano)』は2000年に発売された。

 選曲がいい。リストを挙げれば……。

1.歌劇『ノルマ』から「清らかな女神」

2.歌劇『サムソンとデリラ』から「あなたの声に心が開く」

3.歌劇『トスカ』から「歌に生き、恋に生き」

4.歌劇『カルメン』から「ハバネラ」

5.歌劇『ジャンニ・スキッキ』から「私のお父さん」

6.アヴェ・マリア

7.歌劇『椿姫』から「さようなら過ぎ去った日よ」

8.ロスト・ボーイズ・コーリング

9.ユー・アー・ザ・ワン

10.ディソナンツェ

11.マリア、海辺にて

12.清らかな女神 (ロング・ヴァージョン)

 

 どれも耳に馴染んだ曲ばかりだが、まるで初めて聴いたかのような新鮮味がある。フィリッパが目の前で歌っているような臨場感があるのだ。時に蕩けるように、時に悶えるように……。フィリッパの歌声には人間味が溢れている。人間の声が最高の楽器だとはよく言われるが、心地よい波に洗われたいと思ったときは、迷わずこのアルバムを選ぶ。

 

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