いのちのふしぎ

10年近く前、尊敬する小児科医・真弓定夫氏の案内で、胎内記憶をテーマにした映画の上映会に行ったことがある。多くの幼い子供が、母親の胎内にいた頃の記憶をもっているという内容だったが、胎内のみならず中間生(精子や卵子だった頃)やそれ以前の記憶(精子や卵子だった頃の記憶、あるいは過去生=別の人間だった記憶)をもった子もいると知り、驚くと同時に、なんとなく眉唾だとも思った。
しかし、胎内記憶に関心を抱いたある産婦人科医が、6000人以上もの子供に聞き取り調査をし、それを本に書いたと知った。それが本書である。
「命の起源にトラウマが潜んでいる」という副題にあるように、それが本当なら、看過できないことである。なぜなら、胎内にいた頃の体験(記憶)が、出生後も当人に大きな影響を与えているからである。
昔、日本では満年齢ではなく、数え歳が当たり前だったが、出産をもって「誕生」とするのは不自然なのかもしれない。どの時点で「命」が生まれたと判断するかは難しい問題だが、母親の胎内にいる子供が何を感じ、何によって心性が育まれるのかを知ることはきわめて大切なことだと思った。
本書に紹介されている子供たちは、母親が飲食したものの臭いや外出の際に見た風景、あげく夫婦喧嘩の様子まで覚えている。また、自分(胎児)が宿ったことによって、両親がどのように思っていたかも知っている。そう、胎児はなんでも知っているのだ。
本書には、聞き取りに応じた子供たちの言葉がたくさん掲載されているが、その一部を紹介しよう。
〈出産の瞬間〉
「とてもまぶしくて、寒かった。お母さんの顔がとても不思議で、ずうっと見てた」
「早くお母さんにだっこしてほしかったのに、ガラスに入っていた」
〈精子記憶〉
「ぼくはたくさんの仲間と競争していて、大きな玉(卵子)に一番でたどり着いた。でも他の仲間はみんな死んでしまった。だからその仲間のぶんまで、ぼくは生きていかなければならないんだ」
多くの言葉とともに、この世に生まれてくる直前の様子を描いた絵も興味深い。
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