死ぬまでに読むべき300冊の本
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紺碧の将

いにしえの人たちはすぐれた文字デザイナーだった

file.170『新書源』二玄社

 

 隠れた名著といえば、辞書の類を挙げなければならない。白川静の『常用字解』はその最たるものだが、ここで紹介するのは書家におなじみの『新書源』。1393ページもある大著だが、ずっと眺めていても飽きない。

 そう。「読む」のではなく「眺める」。この書物は人甲骨文から仮名まで3000年にわたる文字の変遷を収めているのである。楷書・行書・草書・隷書・篆書の書体ごとにまとめ、それぞれ時代順に配列するというきめ細かさ。字例は7万3000におよぶ。

 本書を見ていると、文字に込めた先人たちの思いが伝わってくる。いま、われわれは自然の造作物のように文字を見ているが、そこに至るまでは気が遠くなるほどの変遷があった。まずはそれを知るだけで、貴重な一歩を踏み出せる。

 文字そのものの美しさに加えて、表意文字ならではの情感にも感心する。われわれ漢字に親しむ者は、「清」という字を見ただけで、一種のすがすがしさを感じる。「凶」という字を一瞥しただけで、ある種のまがまがしさを感じる。そういう文字文化を継承してくれた先人たちに、おのずと頭が下がるのである。

 私の名前にある「多」という字は『常用字解』によれば「夕は肉の形であるから、夕を二つ重ねて肉の多いことをいう。夕(肉)を且(まないた)の上に上下におき、祖先を祭る廟に供える形は宜である。多はお供えの肉の多いことから、すべて「おおい」の意味となり、おおいことから「まさる、あまる」の意味となる」。

 そういう意味をふまえた上で『新書源』を見ると、右写真のようにさまざまな書体が時代の変遷とともに紹介されている。見れば見るほど「なるほど!」と感嘆し、その文字に対する理解が深まる。それはすなわち、自分の名前に対する親和性が高まるということでもある。

 なんと、いにしえの人は超がつくほど高感度の文字デザイナーだったのだ。

 

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