音楽を食べて大きくなった
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紺碧の将

熟成するということ

file.099『レイジング・サンド』ロバート・プラント&アリソン・クラウス

 まったく異質なもの同士が融合して新たなものが創造されることを「ケミストリー」と表現することがある。化学反応とは訳したくない絶妙な表現だ。広義的にみれば、男と女という異質なものが融合し、新たな生命が生まれることもそうだろう。ビートルズだってジョンとポールが異質だったからこそあれだけのケミストリーが生じた。

 レッド・ツェッペリンのヴォーカリスト、ロバート・プラントとブルーグラス(スコッチ・アイリッシュの伝承音楽をベースにしたアコースティック音楽)の歌姫アリソン・クラウスが融合して生まれた音楽もケミストリーという言葉がふさわしい。

 かたやギンギンのハードロックバンドで雄叫びをあげていたロバート・プラント、かたやノスタルジックな歌声で数十ものグラミー賞を獲得したディーヴァ。本来なら「絶対に」合うはずがない。

 しかし、結果はどうなったか。2007年に発表された本アルバムはふたりの新境地を拓き、グラミー賞の主要部門を総なめにした。

「これがあのロバート・プラント?」

 一聴すれば、だれもがそう思うだろう。かつての肉食獣的なシャウトは完全に姿を消し、かわりにブルージーで熟成された大人の歌声がゆったりと流れる。

 2曲目の「キリング・ザ・ブルース(Killing The Blues)」は南国にいるかのようにゆったりしている。いったいプラントは70年代当時、50年後にこんな歌い方をしていると想像できただろうか。つづく3曲目の「シスター・ロゼッタ・ゴーズ・ビフォア・アス(Sister Rosetta Goes Before Us)」は異国情緒あふれるノスタルジックな曲調だが、アリソンの声のふくよかなこと! プラントも気持ちよさそうにハモっている。

 プラントをそうさせてしまったのは、もちろんアリソン・クラウスである。すべてを包みこむ母性的な歌声でしっかりとプラントをガードしている。彼女はときおりヴァイオリンを奏でるが、それも曲調にぴったり合っている。

 こういう音楽を聴くと、「ああ、いい歳のとり方をすれば熟成するんだなあ」と思えてくる。世はアンチ・エイジング一辺倒だが、発酵食品同様、熟成することの価値を忘れてはいけない。

 ふたりのコンビは作品を乱造しなかった。なんと14年を経て『RAISE THE ROOF』というアルバムを発表した。それに合わせた昨年の全米ツアーではツェッペリンの名曲「ロックン・ロール(Rock and Roll)」も披露した。

 私はリアルタイムでツェッペリンに聴き狂っていた世代だが、いまはこっちのロバート・プラントが好きだ。

 余談だが、ふたりの関係においても「ケミストリー」があったようで、いつも仲睦まじく写っている。

「プラントさん、いい歳の取りかたをしましたね」

 

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