21歳の驚くべき熟成
10代の半ばくらいからずっと熱心に音楽を聴きつづけてきたから、たいがいのことには驚かないが、久しぶりに度肝を抜かれた。
サマラ・ジョイに、である。
「これが21歳の歌か!」
彼女が21歳のときに録音した『サマラ・ジョイ』は、それほどに常識外れだ。
1999年生まれというから、現在弱冠23歳。ニューヨーク・ブロンクスで生まれ。祖父母も父親もゴスペル・シンガーという音楽一家に育った。
もともと天性の声があるところにもってきて、クラシックやジャズのヴォイス・トレーニングを受けている。数十年に一人の逸材であることは疑いない。
サマラはサラ・ヴォーンを敬愛するが、その声質はサラ・ヴォーンを凌駕すると思う。シルクのように滑らかなのに、どこかが引っかかる。そんな矛盾したことがあるのかと思うが(コクがあるのにキレがある)、実際にあるのだ。低音から高音まで一定の強さで歌うことができ、ファルセットにうつるときも自然にシフトチェンジする。いったい、こんな離れ業をどうやって身につけたのだろう。
あるインタビューで、サマラはこう答えている。
「クラシックのレッスンで学んだメソッドは、正しい発声が大事だということ。これはロック、リズム&ブルース、ジャズとジャンルが異なっても応用可能だと思うし、アーティストとしての基礎になると思う」
つまり基本中の基本を学んだということ。このことは音楽に限らず、あらゆることにあてはまる金科玉条であろう。
このアルバムのメンバーは、パスカル・グラッソ(g)、アリ・ローランド(b)、そしてケニー・ワシントン(ds)。グラミー賞の最優秀新人賞、最優秀ジャズ・ボーカル・アルバムの2部門を受賞した。
収録曲は以下の13曲。ジャズ・ヴォーカルに詳しい人なら、曲名だけでシビレてしまうようなものばかり。すでに世の中に「お手本」ともいえる名演奏があふれているが、それらに挑んだだけでも勇気がある。しかも往年のアーティストと比べてもサマラの歌はまったく遜色がないのだから驚きあきれる。
1.スターダスト(Stardust )
2.エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー(Everything Happens To Me )
3.イフ・ユー・ネヴァー・フォール・イン・ラヴ・ウィズ・ミー(If You Never Fall In Love With me )
4.レッツ・ドリーム・イン・ザ・ムーンライト(Let’s Dream In The Moonlight )
5.イット・オンリー・ハプンズ・ワンス(It Only Happens Once (Frankie Laine)
6.ジム(Jim )
7.ザ・トラブル・ウィズ・ミー・イズ・ユー(The Trouble With Me Is You )
8.イフ・ユード・ステイ・ザ・ウェイ・アイ・ドリーム・アバウト・ユー(If You’d Stay The Way I Dream About You )
9.ラヴァー・マン(Lover Man )
10.オンリー・ア・モーメント・アゴー(Only A Moment Ago)
11.ムーングロウ(Moonglow)
12.バット・ビューティフル(But Beautiful)
13.ソフィスティケイテッド・レディ(Sophisticated Lady)