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四季の移り変わりは人間の心と同じかも

file.035『合奏協奏曲「四季」』A.ヴィヴァルディ

 初めて買ったクラシックのレコードが、カラヤン&ベルリン・フィルによるヴィヴァルディの合奏協奏曲『四季』だった。『四季』といえば、イ・ムジチ合奏団と相場は決まっているが、私はカラヤン版から入ったのである。

 結果的に、その流れはよかったと思っている。まずはカラヤンの解釈が基本となり、しかるべく時を経たうえで定番を味わう。逆のパターンより、妙味があるように思える(ま、どちらでもいいのだが)。

 それにしても、典型的なドイツ人気質のカラヤンが、どうしてこうもイタリアの気候や心情を表現できるのかと思わせるほど、自然の微かな移り変わりが表れている。カラヤンがイタリア・バロックにのめり込んでいた時期の録音とはいえ、いつもの〝カラヤン節〟は影をひそめ、ナイーブで叙情的な表現が随所にある。4つの季節ではなく、いにしえからわが国にある72種類の季節のとらえ方(七十二候)にも重なるのではないかと思うほど繊細な音作りだ。

 そう思うのは、受け手である私の状況ゆえだったのかもしれない。このレコードを手にしたのは中学時代だったか高校時代だったかはっきり覚えていないが、当時の私は〝狂〟がつくほどのロック少年で、その合間にカラヤンの『四季』を聴いて、心をいたく揺さぶられたのである。なるほど、自然の移り変わりをこういうふうに表現することはロックでは無理だな、と。今でもクラシックやジャズ、ロックを同一線上で聴けるのは、その頃の体験がものを言っている。

 ところで、この『四季』だが、もともとヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の試み』のうち、第1曲から第4曲までをそれぞれ「春」「夏」「秋」「冬」としたものの総称に過ぎない。ヴィヴァルディがこれら4曲をまとめて「四季」と称したことは一度もないのだ。しかし、今となってはまごうかたなきクラシックの入門曲として、並ぶものがないと言われるほど人々に親しまれている。

 通常はヴァイオリンのソリストと管弦楽による伴奏によって構成される。時に、複数のヴァイオリン奏者がいる場合もある。それがゆえ、通常のヴァイオリン協奏曲と区別するため合奏協奏曲としたのだろう。

 各曲はそれぞれ3つの楽章から成り立っている。

 第1番「春」の冒頭の数小節を聴くだけで、ヨーロッパ人にとって、春の到来がどれほど待ち遠しいものか、わかろうというもの。瞬時にボッティチェリの『春 ラ・プリマヴェーラ』を彷彿とさせる。

 小鳥のさえずり、小川のせせらぎ、やわらかな日差し、優しく頬を撫でる風……。その後、幸福な風景を切り裂くように雷がやってくるが、やがて嵐は去り、小鳥が愛らしい声で春の喜びを歌う。

 第2番「夏」はト短調で書かれていることでもわかるように、けっして爽やかな季節ではない。じりじりと照りつける太陽の蒸し暑さで人と羊の群れは疲れ切ってしまう。やがて嵐がやってくる。稲妻と雷鳴の轟き。虫が飛び交う音。雹(ひょう)が大地に打ちつける様がヴァイオリンによって奏でられる。日本の夏もかなり不快だが、イタリアではずっとそうだったようだ(それでも北欧からは太陽を求めて観光客が訪れる)。

 一転して第3番「秋」は心地よい調べが続く。「小作農のダンスと歌」「よっぱらいの居眠り」「狩り」というソネットが付されているように、この曲では大地からの豊かな恵みを享受した人々の歓喜と安寧が描かれる。イタリア人にとって日本人と同様、秋は収穫の季節。10代の頃、心がささくれたっていた時は、この曲に慰められたものだ。

 最後の第4番の「冬」も厳しい季節。イタリアと聞けば温かい国と連想しがちだが、北部であれば緯度は北海道と同じ。アルプス山脈も近く、寒さは想像以上だ。

 第1楽章は寒さにうち震える人々の様子が表現される。足が冷たくてじっとしていられなかったり、おのずと歯が鳴ってきたり……。ソリストは、それらを巧妙に表現する。やがて、春が近づいている予感を感じさせながら、幕を閉じる。

 

 長年、カラヤン版とイ・ムジチ版を聴いてきたが、ある時、アンネ・ゾフィー・ムターがソリストと指揮者を兼ねた演奏を聴き、彫刻のように立体的な表現に驚いた。イ・ムジチ合奏団の整然とした演奏と比べ、オーケストレーションよりヴァイオリンのソロを重視しているのは明らか。もちろん、自身がヴァイオリニストだからだろう。特に第3楽章はタメと緩急が際立っている。さしずめ書でいうならば、線の強弱、墨の濃淡・潤渇、スピードの速遅で変化をつけているかのよう。「夏」の、陰鬱とした空気感、外の様子を伺うような慎重さ、嵐の到来のような激しい音など、自然を模した音が印象深い。

 

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