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紺碧の将

宙に浮かぶ舟の瞑想空間

2019.06.29

 前回に続き、神勝寺の話題を。

 神勝寺は、禅の理想郷だと書いたが、なんといっても特筆すべきは、彫刻家・名和晃平氏が監修した奇抜な瞑想空間「洸庭(こうてい)」であろう。

 レセプションも兼ねた松堂で入園料(1,200円)を払い、庭内に入って左へ曲がり、坂を上がったところに多宝塔がある。その先の橋を渡ると、正面に奇妙な形の建物が見える。
 それが洸庭だ。全体をこけら葺の木材で包んだ舟型の建物が、石の庭の上に浮かんでいる。

 なぜ、舟の形? もちろん、開基者が造船会社の経営者だからである。

 建物の周囲を周ってスロープを上り、アプローチから舟に入る。まばたきをする間もなく、漆黒の暗闇に包まれる。日常生活で、まったく光のない、無明の空間はない。25分間、この暗闇のなかに座るのである。

 真っ暗闇に覆われると、瞬時にして体内のセンサーが働くのがわかる。生き物にとって、暗闇に身をおくのはかなり危険な状態だ。意識を最大限に研ぎ澄まし、目を凝らす。すると、ほんの微かにだが、光の粒が見える。徐々に明度が上がると、波をたてながら水面(みなも)が広がっているのがわかる。照明は微妙に変化し、水面の動きをとらえる。

 覚醒と緊張の連続。その果てに、瞑想への境界があることに気づく。25分は、またたく間とも長い時間とも感じられた。

 洸庭を出ると、おびただしい光に包まれる。

「そうか、ふだん、こんなに光を浴びているのか」とあらためて思う。奇跡的なことなのに、ふだん忘れがちなこと。それを再認識することが禅の本質でもある(と思う)。

 庭の奥には中根金作の枯山水がある。そこで、瞑想の続きを楽しむもよし、チンアナゴのようなオブジェが土のなかからニョキニョキと顔を出している庭を楽しむもよし。あるいは、なんにも感じなくてもよし。いずれにしても、禅にふれることによって自由な境地に至ることが肝要だ。

 こだわりのある人は、「あんなの邪道だ」と言うかもしれない。しかし、それこそ、こだわり=執着であろう。そういうことを言う人は、案外、禅から遠く離れた人だ。

 私は、大仕掛けの瞑想空間に盛大な拍手をおくりたい。

 

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(190629 第912回 写真上は洸庭。下はアプローチ)

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