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紺碧の将

極彩色の壁画と切手ブーム

2019.05.28

 明日香村を歩いていると、今がいつの時代なのかわからなくなる。どこまでも長閑な光景が続き、いたるところに飛鳥時代の遺跡があるのだ。時空を越えて、いにしえの日本を旅しているような気になる。

 橿原神宮駅から2つ目の駅・明日香駅から20分ほど歩くと、国営飛鳥歴史公園があり、その一角に高松塚古墳がある。

 高松塚古墳は1972(昭和47)年に発見された。村人がショウガを貯蔵しようと穴を掘ったところ、大きな切り石にぶつかった。それが発端となり、橿原考古学研究所が発掘調査を進めたのである。

 藤原京の時代(694〜710年)に造られたと思われる古墳の内部には、極彩色の障壁画が鮮やかな色のまま保存されていた。日本列島は沸きに沸いた。

 当時、私は小学6年生で、切手収集に夢中だった。世が切手ブームの真っ最中であり、私もその虜になったのだ。図柄が美しいものはずっと眺めていても飽きなかった。高額な切手はとうてい手が届かない。いわゆる〝高嶺の花〟はいやおうなくその価値を高める。

 高松塚古墳が発見されたあと、記念切手が発行されることになった。壁画のうち、「女子群像」「男子群像」「青龍」の3枚をセットに、それぞれ10円と5円の寄附金が加算された異例の切手である。

 これは、国会議員(当時)の森山欣二氏を会長とする国会フィラテリスト議員連盟の発意によるもので、高松塚古墳の保存のために寄附金付きの切手を発行しようと郵政省にかけあった結果、実現された。

 発行枚数は「男子群像」と「青龍」が各3000万枚、「女子群像」が1500万枚と多かったが、おりからの切手ブームであっという間に完売。急ぎ、追加販売された。その結果、総額で7億円以上の寄附金が集まったという。

 私も発売日に並んだ。当日の長蛇の列をいまだに覚えている。それくらい、高松塚古墳記念切手は物議を醸したのだ。

 話は戻る。きれいに土が盛られ、芝が植えられた高松塚古墳は古色蒼然とした雰囲気がまったくなく、記憶から勝手に想像していたものとかなり乖離があった。

 もちろん、内部は見られない。発見してから壁画はまたたくまに傷み、現在は修復作業が続けられている。

 本物が見られないかわり、すぐ隣に壁画館が設営されている。寄附金によって造られたという。壁画の精巧なレプリカや石槨内の模型など、発見された当時の様子が緻密に再現されている。

 

 ところで、切手に関して、私には苦い思い出がある。世の中を知るきっかけになった出来事と言い換えてもいい。

 当時、空前の琉球切手ブームが沸き起こっていた。沖縄がまだアメリカ領だった頃で、切手に表示されている数字もドルだった。にもかかわらず、ものすごい勢いで値が上がっていった。

 それが投機筋によるものだと小学生が知るはずもない。私もこづかいのなかからなんとか工面し、なるべく「値が上がりしそう」な切手を買った。早く買わないと、どんどん値が上がり、手が出せなくなってしまう。

 それらを冷ややかに見ている人たちがいた。値上がりは一部の人たちが仕組んだものであり、いずれ値下がりする。本来の切手収集は、そういうものではない。切手に愛着があれば、使用済みでもいいではないか、と主張していた。

 世間知らずだった私は、実際こんなに値上がりしているのに、いったいなんてバカなことを言うのか、と思った。

 やがて、ブームは火が消えたように収束し、使えない琉球切手が何枚も残った。今でも持っているシートブックには、琉球切手がたくさん残っている。図柄が美しいため、まったく価値がないわけではないが。

 私はそれを教訓として残しておこうと思った。世の中には、自分たちが都合のいいように仕組んだり、煽ったりする人がいる。流行をつくる人もいる。〝常識〟をつくる人もいる。だから、曇りなきまなこで、なにが真実かを見極めなければならない、と。

 そういう意味では、あの頃の琉球切手ブームは、絶好の課外授業だったわけだ。

 

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(190528 第904回 写真上は高松塚古墳、下は高松塚古墳切手)

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