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紺碧の将

熟成してきた日本のリゾート空間

2015.08.22

界熱海の温泉 30代の半ば頃から約10年間、リゾートホテルにはまった。行き先はバリ(インドネシア)、タイ、マレーシア、フィリピンなど、主に東南アジアだったが、「こんな世界があるのか!」と感嘆の連続だった。

 当時体験したことが、いま、なんらかの形になって現れていると思う。体験したことはけっして無駄にならない。少なくない授業料だったが、当時体験しておいて良かったとつくづく思う。
 その頃、国内のリゾートホテル巡りもしたが、正直なところ、こなれているところはごく少数だった。リゾートホテルの基本中の基本はスモールラグジュアリーだが、まだバブルの余韻があったのと、もともとリゾートでたっぷりある時間を豊かに味わうという習慣が日本になかったからだと思う。忙しい人ほど、それは価値を増すのだが、残念ながら忙しい人の多くはゴルフに精を出し、リゾートには見向きもしなかった。
 大型バスを運行し、会社の宴会に対応するような大型ホテルはバブルの象徴だ。夜はカラオケ、朝食はバイキング。チェックアウトは10時。共用のスリッパ……。熱海にも鬼怒川にもそういったホテルがわんさとあった。そして、その大半が経営不振に陥り、多くは破綻した。ゲストが寛ぐことよりも、効率よく稼ぐことばかりに目がいった結果だ。
 ここ十数年、リゾートホテルへ行くような余裕がなくなっていたが、最近、2つのホテルに滞在する機会を得た。そこで感じたことは、日本のリゾートホテルもかなり熟成されてきたということだ。
 ひとつは、熱海のヴィラ・デル・ソル。相模湾に面した小ぶりなオーベルジュで、崖の上にある界熱海(旧・蓬莱)とつながっている。最近、数々の名旅館をプロデュースしている星野リゾートが数年前に買収し、大幅にリノベーションしたらしい。
 ルネッサンス様式の洋館をパブリックスペースとし、宿泊棟を増築したとのこと。洋館は紀伊徳川家が江戸の邸内に創設した私設図書館「南葵文庫」を移築したもので、国の登録有形文化財にも登録されている。
 こういう空間でいただくモダンフレンチは格別。波の音を聞きながら読書に没頭できるのも極上の歓びである。
 崖の途中にある温泉もいい。隈研吾氏が設計した湯処から相模湾が一望できる。その近くにある、休憩所が素晴らしい。森の中にあって海が開け、ビールなどを自由に飲むことができる。屋根を見ると、驚くことに木の骨組みだけで覆いがない。雨が降ってきたら濡れてしまうのだが、あえて覆わないところがニクイ。森や夜空と一体感を味わえることを優先している。
明神館 もうひとつの宿は長野県松本市の明神館。こちらはリピーターとして訪れた。
 進化している! おそらく代替わりが進み、「いいところはそのまま継承し、さらに発展・継承させる」という方針をとったのだろう。携帯電話の電波がようやく通じるような山の中にあるが、渓流の前にある立ち湯はこれまた壁など遮るものを作らず、自然と一体感を味わえる。食事も接客も申し分ない。パブリックスペースのレイアウトも100点満点に近い。廊下にある消化器にもさりげなくカバーをかけるなど、興ざめにならない配慮が随所に感じられる。こういうリゾートホテルは、これから海外のVIPに愛されるだろう。聞けば、滞在者の約3割がすでに外国人だという。
 アマングループが東京にホテルをつくるような時代である。日本の観光は、これからどんどん進化するだろう。
(150822 第573回 写真上は界熱海の温泉。下は明神館の立ち湯。いずれも公式サイトより拝借)

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