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アパルトヘイトの影と光

2013.03.06

マンデラの独房 悪名高き南フリカのアパルトヘイト政策のことを知ったのは、20代の前半だった。過酷な人種差別によって黒人が虐げられているという情報が、少しずつ入ってきていた。

 その頃、あるLPレコードを買った。タイトルは『SOWETO』。人間扱いされない黒人たちが地下に潜って極秘に録音したもので、その強烈なリズムに心を衝き動かされた。

 ソウェトとは、South Western Township の頭の文字をつないだ言葉で、当時の黒人居住区のことである。アパルトヘイト政策は今から22年前に廃止されたが、今でもソウェト地区は残っている。とはいえ、エリアによっては高級住宅街になっており、かつての悲惨な面影はあまりない。

 さて、南アフリカの黒人解放運動の英雄といえば、黒人初の大統領となったネルソン・マンデラだろう。彼の名前は、これまた音楽で知った。1985年、フランスで発表された、セネガルのアーティスト、ユッスー・ンドゥールの『ネルソン・マンデラ』がそれだ(日本での発売は1987年)。

 ちなみに、ユッスーが西側先進国に知られるきっかけとなったのは、ピーター・ガブリエルの傑作アルバム『SO』に収められていた『In Your Eyes』のエンディングにおいてである。わずか数十秒だったが、フェイドアウトする前に忽然とユッスーの獣のような声が立ち現れ、やがて消えていくという、隠し絵みたいな技法だったが、その数十秒だけで世界の音楽ファンにとてつもない衝撃を与えたことはまちがいない。それからあれよあれよという間にスターダムにのしあがった。思えば、ピーター・ガブリエルという男は抜群の審美眼をもった男である。よくぞユッスーを見いだしてくれたと感謝せずにはいられない。

 

 ヨハネスブルグからケープタウンへ移り、いよいよ旅も最終章を迎えていた。

 一行は、ウォーターフロントから船に乗り、約14キロの沖合に浮かぶ小さな島、ロベン島へ上陸した。当時、政治犯の収容とらい病患者を隔離するために使用されていた島で、ネルソン・マンデラも10年近く、収容されていた。ちなみに、マンデラの刑務所生活は、トータルで27年に及ぶ。不撓不屈の精神にあらためて脱帽するばかりだ。

 ロベン島は殺伐としていた。独房や高い塀のなかの広場、過酷な強制労働が行われていた石灰岩の石切場など、荒涼とした光景が、あらゆる動物のなかで人間こそが最も残忍であることを物語っていた。南アフリカ特有の強い光を反射する白い島は、残忍な人間の象徴ともなっていた。

 蛇足ながら、アップル社のThink Different キャンペーンのオープニングは、「世界を変えたクレイジーな人たち」」を次々と映す構成だったが、スティーブ・ジョブズは最後までネルソン・マンデラの起用をあきらめていなかった。さまざまなルートからマンデラに接触していたらしいが、結局、ジョブズの夢は実現しなかった。

 ところで、私はある疑問を抱いていた。アパルトヘイト政策が廃止されてからの22年間でどう変わったのか?

 答えは、「やっぱり……」だった。

 詳しく語ってくれたのは、現地の日本人ガイド。

 彼の話によれば、アパルトヘイト政策がなされている間、白人たちは高額の税金を納め(最高42%)、それが貧民層への扶助にもつながっていたという。

 しかし、白人と黒人が平等になり、さらに黒人がさまざまなシーンで優遇されるケースが多くなるにつれ、弊害が顕著になってきているという。例えば、ほぼ能力が同等の白人と黒人が採用試験を受けた場合、採用されるのはまちがいなく黒人だというのだ。そういう傾向がさらに強くなった結果、優秀な白人が国外に脱出し、そのため南アフリカの経済力は著しく落ちているという。また、収めた税金の行方がわからなくなるなど、政治や役人の腐敗も横行しているという。

 この構図は、マレーシアのブミ・プトラ(マレー人優遇政策)とも重複する。結局、行きすぎた平等は、やる気のある人の気力を削ぎ、全体のレベルダウンを誘導するのである。社民党や共産党の政策は、一見、弱い者に配慮したもので人道的には文句のつけようもないが、結果的に日本全体が沈んでいく政策であることは火を見るより明らかである。ソ連の崩壊をみれば、そのことはすぐに理解できるだろう。

 実際、今回訪れた3国の労働者をひとことで表すなら、「まったく仕事のできない連中の集合体」であった。とにかく、日本の常識で考えると、理解できないくらい仕事ができない。仕事を通して人に喜んでもらうなどというレベルとはほど遠く、ただ不機嫌に仕事を続けているという雰囲気の人がどれほど多かったことか。これでは国力が落ちるのは当然だ。

 アパルトヘイト政策のような人種差別主義はもちろん言語道断、厳しく糾弾されるべきだし、今後、二度とあってはならない。しかし、どこまで平等を推し進めるのか、というテーマは、永遠に解決できないジレンマだと思った。

 私が政治家だったら、今回のアフリカ訪問で考えさせられたことは甚大であったことと思う。そして、数多くの人間が集まった社会の制度をつくる仕事に絶望していたかもしれない。と、他人事で言ってはいけないのだが……。

 (130306 第406回 写真は、ネルソン・マンデラが収容されていた独房)

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく陰陽相和す中庸を求める

■本は永遠の師匠

バルザック、ユゴー、デュマなど19世紀フランス文学からヘミングウェイ等の20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンの御三家からワーグナーまでのドイツ音楽、フランク、ラヴェル、フォーレなど近代フランス室内楽、バルトーク以降の現代音楽まで、あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■映画は総合芸術だ

『ゴッド・ファーザー3部作』などのマフィアもの、『ニュー・シネマ・パラダイス』、黒澤明のほぼ全作品、007シリーズ、パトリス・ルコント監督作品など、こちらも雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■歴史上の尚友

尊敬する偉人の双璧は、大久保利通と徳川家康。他に幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介。理想主義者、ロマンチストより結果を出したリアリストを評価する

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■隠れ目標

死ぬまで同じライフスタイル

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■追記

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす。かなりの猫好き(愛猫・海=2019年没)、2019年9月、「じぶん創造大学」を設立し、自ら入学(生徒数1名)

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