小磯良平と蜷川実花
神戸へ行ったついでに小磯記念美術館と京都の京セラ美術館へ行った。遠い近いにかかわらず、どこかへ行ったら「本物の美」に触れることを習わしにしている。
小磯記念美術館は神戸港を埋め立てたアイランドにあり、その名の通り、小磯良平という稀有な洋画家の作品を主体に展示する美術館である。
小磯良平といえば、赤坂迎賓館の正面入口を入り、階段を登った先にある2枚の大作、すなわち「絵画」と「音楽」を思い浮かべる。〝日本の顔〟として外国の貴賓を迎える場に掲げる絵をまかされたというだけで小磯良平の力量がわかろうというもの。赤坂迎賓館そのものがとんでもない芸術品だが、それはそれとして、2つの小磯作品を見るだけでも訪れる価値がある。
小磯記念美術館は3つの展示室で構成されているが、1と2は小磯と同時期に活躍した昭和の洋画家の作品が展示されている。1と2を見た後、小磯の作品が展示されている3に入ってすぐ、まったく「もの」が違うことを思い知らされた。なにがどうと具体的に言えないが、とにかく「格」がちがうのだ。ひとつの静物、一本の木、ひとりの表情……どれをとっても圧倒的な存在感がある。いったいなんなんだ! 一流と一・五流の間には、途方もない差がある。
もうひとつ小磯良平といえば、「斉唱」という名作がある。これは兵庫県立美術館に収蔵されているものだが、作者の品格が伝わってくる傑作である。白い襟と楽譜が清澄なハーモニーを奏でている。清らかな歌声が天から降ってきそうだ。
京セラ美術館では蜷川実花展が開催されていた。デビュー当時から尖った色彩感覚に注目していたが、さらにスケールアップされ、彼女の世界が大きく華ひらいていた。一見、奇抜と思える表現も、草花をモチーフにしているからかまったく違和感がない。これからどう変わっていくのか、楽しみなアーティストだ。
小磯記念美術館の外観
赤坂迎賓館の「絵画」
これが「斉唱」。※小磯記念美術館にはない
京セラ美術館の外観
蜷川実花展の巨大バナー
この妖艶な植物の姿態。生老病死を感じる
百花繚乱とはこのこと
奇をてらった風のインスタレーションだが、唯一無二の才能を感じさせる
(250308 第1262回)
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