自分がどっさり持っているものは、ありがたくないのが人間の常だ。
アントン・チェーホフ「嫁入り支度」より
ロシア人はよくわからない人たちだ。他国を侵略することや国際条約を破ることなんか屁とも思っていない人が多い(国際条約を破った国は、ロシアがダントツで1位)一方、きら星のごと芸術家を輩出している。音楽と文学の世界におけるロシアの地位は人類が続く限り永遠に不滅だろう。
上掲の言葉は、劇作家・小説家チェーホフの短編小説の一節。その言葉のあとに、「手にあるものは大事ではないと結んでいる。
すでに手にしているものに価値を見出そうとせず、持っていないものに執着し、欲望を膨らませるのは人間の業である。とりわけ金に対する執着は、業などという言葉では甘っちょろいと感じさせる。
しかし、それほど欲しかった金も、いざ手にしてみると、ありがたいものとはならない。もっと大きな額の金が欲しくなり、持っているものでは満足できなくなるからだ。金は数字の概念だから、一度その魔物に取り憑かれると、終わりがない。
娘の嫁入り道具として、せっせと縫い物をしてトランクに溜め込んでいた女だが、どういう理由か、娘は帰らぬ人となった。それでも縫い物を続ける。盗まれないよう、教父に預かってもらうと言いながら。
(260418 第892回)
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