自分らしさって何?
これはカミサマからの贈り物だ!
そう思ってしまったのも無理はない。取材で富山へ行くことになっていたのだが、その前日から金沢の国立工芸館でルーシー・リー展が開催されることを知ったのだ。なんと絶好のタイミング!
国立工芸館は一度は訪れてみたいところだったし、以前、国立新美術館と21_21 DESIGN SIGHTで見たルーシー・リーの作品をもう一度間近で見たいと思った。
カミサマからの贈り物と書いたが、それほど単純な話ではなかった。というのは、金沢駅からバスに乗り、最寄りの停留所で降りた瞬間、バケツを引っくり返したような豪雨に見舞われたのだ。まさに3、2、1,0という感じで号砲が鳴ったかのような急転直下だった。カミサマの嫌がらせかと思った。あまりの勢いの雨と風とで歩くのもままならず、傘をさしたまましばらく立ち止まっていたが、あっという間に濡れネズミ状態。そのうち小降りになってきたため、なんとか国立工芸館にたどり着くことができた。そこで靴下を脱ぎ、靴に溜まった水を拭いていざ展示会場へ。
展示内容は期待通りの素晴らしいものだった。
ルーシー・リーの経歴を紹介する映像を見て、ひとつ気になったことがあった。ルーシーはナチスの迫害から逃れるため、生まれ故郷のウィーンからイギリスへ渡った。そこでバーナード・リーチに会う。彼は日本で柳宗悦や濱田庄司、富本憲吉らと知り合い、民藝運動に関わった人物だが、ルーシーの作品を酷評した。厚みがないし高台も狭くて不安定、病的だと。
それを聞いたルーシーはリーチの作風を模した作品を制作したが、それはまったく彼女らしさがなく、凡百な作品でしかなかった。その後、リーチと袂を分かち、自分らしい作品をつくり続ける。
そんなことから「自分らしさって何?」と思ったのだ。
国立工芸館
青釉鉢。この青こそルーシーらしい
線文鉢。フリーハンドの線がいい
ルーシーの宇宙が詰まった鉢
花生。形が自由
この壺はもっと自由
熔岩釉鉢。自然の岩のよう
いびつで薄汚れた感じが魅力の鉢
(250921 第1289回)
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