死ぬまでに読むべき300冊の本
HOME > Chinoma > 死ぬまでに読むべき300冊の本 > 樹木は人間と同じ

樹木は人間と同じ

file.013 『樹木たちの知られざる生活』ペーター・ヴォールレーベン 早川書房

 植物の意外な能力について書かれた本が好きでたくさん読んでいるが、そのなかでも本書はめっぽう面白い。

 著者のペーター・ヴォールレーベンは1964年、ドイツのボン生まれ。大学を卒業後、行政の立場から森林管理に携わっていたが、そこで彼が見たものは、採算性や人間の都合ばかりを優先した林業だった。

 そこで一念発起。安定した職を捨ててフリーランスの営林者になる。やがて彼の理念に共感したいくつかの自治体から森林管理を任され、樹木のスペシャリストになっていく。

 

 本書を読むと、樹木の能力に驚かされる。まるで人間のようなのだ。たとえば、地中ではさまざまな樹木が根を通じて栄養を与え合っている。協力することで生きやすい環境をつくっているのだ。森が育たなければ、強風や天候の変化から自分を守ることができないから。

 香りや根を通じて、外敵の襲来を警告することも怠らない。たとえば、キリンに食べられたアカシアは警報ガス(エチレン)を発する。すると空気を伝わって、ほかの樹木にメッセージが届く。さらに驚くことは、それを知っているキリンは、メッセージが届かない距離に移動して食べ始めるか、あるいは香りが届かない風上に移動する。知恵比べである。

 親樹が子供の樹に施す教育も奥が深い。ほとんどの子樹は親樹の近くに発芽するが、親樹は子樹を早く成長させないために、光を遮るという。早く成長した樹は早死にするのだ。ゆっくり成長した樹は年輪も詰まっていて柔軟性もあるため嵐がきても折れにくいし、抵抗力も強いため菌類に感染することも少なくなる。人間教育にも大いにヒントになる。

 一本のポプラが生涯につくる種の数が約10億個であるのに対して、きちんと育つのはたった一本しかないということにも驚いた、宝くじに当選する確率よりずっと低い。それだけ命は尊いということだ。

 あとがきで訳者の長谷川圭がヴォールレーベンの言葉を紹介している。

 ――森林は資材の自動販売機ではない。樹木は人間に使われることを目的として、ただそこにあるのではない。樹木も私たちと同じように感情をもち、社会的な生活を営む〝生き物〟なのだから、よりよく共存する方法を探さなければならない。

 

 森林管理官として樹木に愛情を注ぐひとりの人間のメッセージが、深く心に沁み入る。

 

Profile

高久多美男

高久 多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

多樂塾

SPONSORED LINK

ココロバエ

Topics

記事一覧へ
Recommend Contents
このページのトップへ