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紺碧の将

本物の塩なくして真の健康なし

file.174『日本人には塩が足りない』村上譲顕 東洋経済新聞社

 

 ずっと思っていた。塩と糖を悪者にしていては、けっして健康にはなれないと。しかし、世の中は減塩・脱糖の大合唱。

 本書の帯にあるコピーが的確に本質を突いている。

「減塩が元気と健康をそこなう」

「体内の塩不足が深刻な健康障害を起こしている」

 ちょっと考えればわかりそうなもの。戦国時代、武田家は塩断ちをされて苦しんだ。塩が体にとって悪いものであれば、それを断たれようが問題はなかったはず。

 塩は体をコントロールする大事なミネラルの集合体である。塩が不足することによって体のミネラルバランスが乱れ、自律神経が不安定になる。

 フランスの生理学者ルネ・カントンは、「すべての病気は体内環境のミネラルバランスの乱れから起こる」と考え、正しいミネラルバランスを保つには海水(自然塩)が有効だと考えた。

 地球が誕生した頃の原始海洋には非常に強い酸が含まれていたという。この酸が岩を溶かし、そのミネラルが酸を中和して古代の海の成分になった。その古代海水のなかでやがて人間につながる細胞が生まれた。その証拠に私たち現代人の体内環境は、濃度も成分も古代海水と変わっていない。

 海水と血液のミネラルバランスは似ている。羊水のミネラルバランスも海水と似ている。体内環境を整えるには、古代海水のミネラルバランスを取り入れることが重要なのだ。塩を日々の食事に使えば、「腸管を通して古代海水を点滴している」のと同じだと本書は指摘する。

 では、なぜ塩が〝健康の敵〟になってしまったのか。

 本来日本では、海水を凝縮して塩を作ってきた。そうやってできた塩には主成分である塩化ナトリウムの他に、いわゆる「にがり」の成分である塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウムや硫酸カルシウムなどの少量成分が含まれている。ところが、明治時代、塩の専売制度を始めたとき、「塩=塩化ナトリウム」と考えたことがすべての誤りの始まりだった。それによって「塩化ナトリウムの純度が高いほど高品質な塩である」という迷信を作りだしてしまった。さらに、塩化ナトリウム以外のミネラルは不純物であると誤った認識が広まってしまった。

 その延長として、昭和46年、伝統的な塩田が廃止され、イオン交換膜透析法という化学工業的な方法で作られるようになった。海のミネラルの集合体こそが本来の塩だったが、いつしか「塩化ナトリウム」がそれにとって代わってしまった。だから、人工的な塩化ナトリウムを減らすことは正しい。

 もうひとつ大事なことは、体内におけるナトリウムとカリウムのバランスだろう。塩を消費する食べ物の最たるものが、果物と甘いもの。それらを食べ過ぎるとナトリウムが相対的に不足する。植物食が主体の日本人は、塩抜きでは元気が出ないというわけだ。

 その他、本書には刮目すべきことが書かれている。1998年、イギリスの医学誌「ランセット」に、食塩の摂取量と死亡率の関係についての論文が発表された。それによると、食塩摂取量の最も多いグループの死亡率が最も低く、食塩摂取量の最も少ないグループの死亡率が最も高かった。もちろん、ここでいう「塩」とは本物の塩である。本物の、とあえて断らなければならないほど偽物が跋扈しているということでもある。

 思えば、私たちの食卓には精製塩、白砂糖、化学調味料など純度の高い、不自然な調味料が氾濫している。本来、人間の舌はスーパーコンピューター並みのセンサーを持つとされるが、それを麻痺させるのが精製したもの。それらを摂り続けるとセンサーがよく働かなくなるという。

 あくまでも塩を敵視したい人は減塩を続ければいい。しかし、ほんとうの健康を手に入れたいのであれば、本物の塩を摂取するべきだ。

 

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