死ぬまでに読むべき300冊の本
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紺碧の将

優しくも強い、日本の母親の原風景

file.166『櫻井よしこ 新潮社』何があっても大丈夫

 

 かねがね不思議に思っていた。櫻井よしこさんは、どうしてあのような人になったのだろう、と。

 櫻井さんがジャーナリストとして、現在日本でも指折りの仕事をしていることに異論をはさむ人はいないだろう。なんら後ろ盾を持たず、徒手空拳で世の不条理と戦っている。男勝りというより、並の男が百人束になってかかっても敵う相手ではない。それなのに、櫻井さんの物腰はソフトで気品が漂い、優しさも表情ににじみ出ている。実名をあげて舌鋒鋭く切り込む、あの颯爽とした姿と櫻井さんが醸し出す雰囲気が符合しないのだ。

 この本を一読して霧が晴れたようにその秘密がわかった。その秘訣はお母さんにあったのだ。まさに、母は強し、である。

 この本は櫻井よしこの半生記という形をとっているが、実は櫻井さんの母・以志さんの伝記でもある。こういう母親に育てられたなら、多くの人が幸せになれるだろうという見本のような人である。

 まず第一に、以志さんは常に前向きに生きることがもたらす心の豊かさを自らの行いで示したことだ。前向きに生きてさえいれば、どんな災厄も防ぐことができるという堅い信念があった。だから、前向きな心持ちを教え込まれた櫻井さんは「不満」と無縁でいられる。世の不条理に憤ることはあっても、自分の境遇を嘆くことはない。

 第二に、以志さんは娘である櫻井さんに人生や人間の良い面ばかりを教えようとした。出奔したままの父親は、「偉い人で、重要な仕事をしているから家に帰ってこられない」と説明する。

 第三に、これはタイトルにもなっているが、どんな苦境にあっても、「何があっても大丈夫よ。お母さんがあなた方を守るから、安心してらっしゃい」と娘たちを励ましていたこと。いつでも自分を守ってくれる、という絶対的な存在が身近にあれば、人は自分のやるべき仕事に打ち込めるはずだ。

 近年、鬼畜とも思える母親の所業をたびたび耳にするが、生き物として何かの歯車が狂ってしまっているのだろう。以志さんのような母親と比較すると、なおさら悲劇の影が濃くなる。

 

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