知識は眼と耳から入ってくるが、けっして口からは入ってこない
内海隆一郎
ここ最近、拙欄に頻繁に登場する内海隆一郎氏。『父から娘に送る「幸福論」』の内容が娘宛へのものであるからか、未来を生きる者への愛情がたっぷりと込められている。まさに父の愛、「義愛」を感じる。ほんとうなら、どの言葉も紹介したいくらいだ。
「気心腹口命」という詩句を思い出した。
元は達磨大師の言葉だそうだが、
「気は長く 心は丸く 腹立てず 口慎めば 命長かれ」という意味である。
ついで「気心腹人己」という類似の詩句も浮かんだ。
「気は長く 心は丸く 腹立てず 人は大きく (己)は小さく」。
どちらも肝に銘じたい。
本当の識者たるものは、そう簡単に口を割ろうとはしない。いや、割ろうとしないのではく、できないのだ。あまりにも得た知識が深いため、言葉にならない言葉が多すぎて、うまく語れないのだろう
人は言葉を持つがゆえに、話さないではいられない。得たものは与えよとの教えからだろうか。眼や耳から収集したものをじっくり温めることもなく、すぐに口に出してしまう。
しかし、浅い知識は、語れば語るほど薄っぺらで軽い。言の葉というだけあって、まるではらはらと散る葉っぱのようだ。
反対に、沈黙ほど雄弁な語り手はいない。
語らないのに、その声は誰よりも優しく、重厚で奥深い。
(160507 第193回)