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人生の終末を迎えた男たちの哀しい性

file.023『眠れる美女』川端康成 新潮文庫

 川端康成はこっそりこういう作品を書いていたのか、少々驚き、同時に妙な親近感を抱くことになった。

『眠れる美女』に収められた3つの短編は、いずれも一読しただけで強烈な印象の残る、際立った個性を持った作品ばかりである。

 表題作がいい。この文庫本の解説はなんと三島由紀夫が書いているのだが、「私はかつてこれほど反人間的主義の作品を読んだことがない」と書いている。三島由紀夫をして、そこまで言わしめる作品とはいかなるものか。

 暗闇に波の音が響く、海辺にほど近いところにある淫売宿がこの作品の舞台である。ただし、この宿は通常のそれではない。すでに男性としての力を失った老人ばかりが客であり、迎える女性は「睡眠薬を飲まされ、ただ眠っているだけの若い女の子」である。そこには性行為がいっさいない。老人たちは、死んだように眠っている女の子に添い寝することだけを許される。

「たちの悪いいたずらはなさらないで下さいませよ。眠っている女の子の口に指を入れようとなさったりすることもいけませんよ」と宿の女が江口老人に語る言葉がこの作品の冒頭部分だが、「客」はただ眠っているだけでも生命の輝きを発散させる若い女の子を間近にして、煩悶し、さまざまな想念が去来するにまかせるだけである。「安心できるお客様」と形容された老人たちの心に、冷たい風が去来する。「安心できるお客様」などにはなりたくないが、それも世の常。私も安心できる人になっているかもしれない。

 それにしても川端の描写はスゴイ。思わずカタカナで書いてしまったが、これほど圧倒的な頽廃に耽溺している性の世界があろうか。この短い作品に登場する6人の眠った女の子は、いずれもただ眠っているだけなのに、それぞれの個性が浮き彫りにされている。この子たちが、突如目を覚ましそうなほどに、描写が生き生きとしているのだ。何も語らず、ときどき寝言を言ったり、わずかに体を動かす程度なのに、それぞれの個性がきちんと描かれているのだ。川端の人間を見る眼差しが並ではないことが如実にわかる。

 若い女に添い寝することだけを許された老人は、そこでいったい何を考えるのだろう。老人の入り口には立っているが、まだ正真正銘の老人になったことがないのでわからない。しかし、老人たちは、みなぎる生命力を目前にして、自らの死を思うのだろう。そのパラドックスを体験するために、その宿に足繁く通う姿は哀れでもあり、また人間の業をも感じさせる。

 ここで、三島由紀夫に苦言を呈したい。この作品は、「きわめて人間的主義の作品だ」と。

 他に、いきなり女の片腕を自分のそれと交換した男を描いた「片腕」も収められている。この短編は、宮本輝が選んだ「心に残る物語 日本文学秀作選」にも名を連ねている。

 

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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