日本人として覚えておきたい ちからのある言葉【格言・名言】
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賢い人というのは、快適さの麻酔に最初に気がつく人たちなのかもしれません。

堤未果

 上掲の言葉は、NHKの「100分で名著」で、今から96年前に書かれたオルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』を紹介した堤未果さんのテキストから引用した。

 暴力などの強制的な抑圧による支配は非効率だが、心地よさによる心理操作と条件付けによる支配は効率がいいと設定だが、まさに現代社会に酷似している。大半の人はスマホを見ないではいられなくなり、その結果、アルゴリズムによって選別された情報漬けになっている。自ら情報の奴隷になるよう仕向けられ、まんまとその陥穽にはまっている。やがて情緒が失われ、自分で考える力が衰える。いま、長い文章を読むどころか、15分の動画を見ることさえできない人が増えているという。

 

 ドラック依存者が、そこから抜け出すのは容易ではない。身体に染み込んだ薬は、なかなか抜けない。治ったと思っても、またぶり返す。その繰り返しに苦しむのだ。何かにつまづいて、悩み、苦しむ。その現実を忘れるために、また薬物に溺れてしまう。まさに生き地獄である。

 美学者の伊藤亜沙さんは、著書『手の倫理』の中で「安心と信頼は違う」と言っている。もろもろ要約すれば、「安心」とはつまり、ひどい目に遭うリスクのないこと。一方「信頼」は、リスクが伴うにもかかわらず、それに賭けることだと。

 わかりやすいのは、介護や介助の世界だろう。介護人や介助人の仕事は、相手が日常生活に困らないよう手助けすることだが、介護・介助される側にとって、それが必ずしも助けになっているとはいえない。

 相手の意思にかかわらず何でも先回りして準備したり、本人がやってみたい、やってみようと試みる行動まで「危ないから」と制止したりすることは、彼らの生きる意欲を奪う。それは、助けるどころか、命を奪っているのと同じだ。

 よほどのことでないかぎり、伝い歩きをする幼子を見守るように、相手を信頼し、咄嗟の時に手を差し伸べられることが重要なのだ。

 彼らが危険に晒されない「安心」は、介護・介助人にとっての「相手の行動によってこちらがひどい目に遭う」リスクのない「安心」が前提にある。それは、確実に相手をコントロールすることを意味すると、伊藤さんは言う。

 

 堤さんは、テキストにきらめく言葉を散りばめる。

「便利さや効率、快適さと引き換えに、いったい何を失うのか」

「古典の名著が忘れられ、文学や哲学の言葉がなくなると、語彙は減り、思考も貧困になってゆく」

「思う通りに行かないものを排除して、望む結果だけを与えられる時、そこに自由はあるのか」

「麻酔をかけられ快適な奴隷となることを自ら望んでいる時、外から自由を強制されることは、むしろ奴隷の側からすれば邪魔でしかありません」

「本当の自由とは、失敗する可能性も含めて、自分で選択できることではないか」

 いちいち頷くばかりである。

(261013 第906回)

 

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