メンターとしての中国古典
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紺碧の将

易は窮まれば変ず

2020.12.29

 易は窮(きわ)まれば変(へん)ず。変ずれば通(つう)ず。通ずれば久(ひさ)し。

この言葉は「易経」の一節で、世の中のものはすべて陰陽で成り立ち変化する。冬至(一年で一番昼が短い日)になるとそこから昼が長くなっていき、夏至(昼の時間が一番長い日)になるとそこから昼が短くなっていく。このように陰が極まれば陽に転じ、陽が極まれば陰に転じていく。何ごとも極まって変化していけば、必ず道は開ける。変化し道を切り開いていけば、四季が繰り返すように永遠に続いていく。

我々は窮すること(行き詰まること)を恐れますが、それは変化をもたらすターニングポイント(好機)であると教えてくれています。

 

いま何が窮まっているか

 

 新型コロナウイルス(covid-19)の世界での感染拡大は、今の世の中で何が極まっているかを明らかにしてくれたのではないでしょうか。どこからこのウイルスが来たかは諸説あるにしても、世界的な感染拡大の主たる要因は「グローバル化」と「都市部への一極集中」ではないでしょうか。

 グローバル化は世界中どこでも人が行き来し、ビジネスや観光など経済と精神の両面で人間を幸せにしました。しかし、covid-19の登場によってそれが完全に裏目に出ました。また、感染は主に都市部で進んでいます。近代化によって都市部には快適な生活環境が整いましたが、人口密度の高い都市部で感染が集中し、そこから地方に広がっていく形になっています。

「グローバル化」と「都市への一極集中」は善悪の問題ではなく、ある意味極まった状態であり、我々に変容を求めていることは事実でしょう。

 

変化の要請

 

 新型コロナウイルスにより、我々の行動様式が大きく変化しました。日常生活でのマスク着用にアルコール消毒、海外への渡航・国内出張・出社の制限、会食や宴会の制限、病院や介護施設での面会制限などです。

 コロナ禍によってインターネット系の通販や金融業界、巣籠もり需要に関連した一部の業界や企業には福をもたらしていますが、災いを被っているところが少なくありません。特に、航空業界、飲食業界(特にアルコールを伴うところ)、ホテル観光業界とその周辺分野では経営が立ち行かぬ状況まで追い込まれています。また、病院などはコロナ感染者の拡大で多大な負荷がのしかかり、財務的にもスタッフが精神的にも疲弊し、崩壊寸前に至っているところもあります。

 こんな環境で民間企業は、事業と人員のリストラクチャリング(再構築)を余儀なくされ、新たな事業構造づくりに取り組むことになるでしょうし、医療崩壊した病院では、「トリアージ」(治療の優先順位)という究極の選択を迫られることになるでしょう。スウェーデンやインドネシアなどでは、現実のものとなっているようです。つまり、社会や経済の行き詰まりが、我々に思考と行動の変化を強要しているということです。

 

人間は変われない

 

 私は経営コンサルティングの仕事を長くしていますが、人間や組織はなかなか変われないと痛感しています。人間は習慣の動物であり、人の行動の80%以上は無意識の習慣で行っているそうです。また自分の姿を自分で客観的に認識することは難しいという問題もあります。そして何よりも安定と安心を求める人間は、変化に恐怖を感じるからです。

 つまり、ほとんどの人間は自ら変わろうとはせず、本当に追い込まれないと変われないということです。つまり、窮した状態になることが変化の最大の機会になるのです。

 我々経営コンサルタントに依頼が発生するのは、経営者が会社を変えたいと強く思われた時です。つまり何かに窮して、自分の会社の恥部をさらけ出してでも何とかしたい。そんな切実な思いがあってのことです。もちろん、今は悪くはないが、理想を求めるために、外部の力を借りたいというケースも少なくありません。本来なら、悪くなる前に予防的な対処が必要なのですが、なかなか自分の力では考え方や行動は変えられないものだと思います。

 

リーマンショックによる変容

 

 自分自身を振り返ってみても、リーマンショックという危機的な状況が私自身の問題の本質を明らかにし、自分の変容を促してくれたと思います。27歳で経営コンサルティングの業界に入り39歳で独立、リーマンショックの時で47歳でした。独立後、自分なりに苦労もし、考えてやっていたつもりでしたが、リーマンショックでは、自分の力がまったくないこと、環境変化の前で無力であることを思い知らされました。もがいてもがいて、さまざまなことをやろうとしましたが、まったく歯が立ちませんでした。そして何より自分の信念やビジョンそして戦略が定まっていないことに気づかされました。恥ずかしながら長年に渡り、表面的なことにフワフワと踊っていた。信念も覚悟も何も持たずにやっていたのだと。

 その後、中国古典を学んだりしながら、自分と人の持ち味を活かしながら仕事を楽しくすること、人を幸せにすることなど、人生の目標などが見えてきました。お陰で今回のコロナ禍では狼狽えることはありません。

 

「好況よし、不況またよし」

 

 これは経営の神様と言われた松下幸之助の言葉です。その意味は、「不況においては、好況の時には見えなかった部分が見えてくるため、目の前の事象に踊らされることなく、長期的な視点から経営を見直すことができる。過去の延長線上で取り組んできた活動内容を抜本的に見直すチャンスになる」ということです。

 松下幸之助は、「不況克服の心得十カ条」として、次の10項目を示しました。

第一条 「不況またよし」と考える

第二条 原点に返って、志を堅持する

第三条 再点検して、自らの力を正しくつかむ

第四条 不退転の覚悟で取り組む

第五条 旧来の慣習、慣行、常識を打ち破る

第六条 時には一服して待つ

第七条 人材育成に力を注ぐ

第八条 「責任は我にあり」の自覚を

第九条 打てば響く組織づくりを進める

第十条 日頃からなすべきをなしておく

 

 どれも有益な助言なのですが、私は特に第六条「時には一服して待つ」と第十条の「日頃からなすべきをなしておく」ということを見落とさないことが大切だと思います。それは流れが悪いと無理に動いても空回りになるので、一度立ち止まって様子を見る。危機に陥って何かをしようとしても、時すでに遅し、手遅れだということも多々あります。常日頃から先を見越して自らを変化して行くか、或いは危機に耐えられる資源を備蓄おくことが肝要なのです。

 

運不運と未来への希望

 

 今回のコロナ禍で致命的なダメージを受けるか、あるいは追い風となるかは、誰も予想ができませんでした。今後どんな変化が起こり、どのような影響が出るか誰にもわかりません。◯◯ショック、地震・台風、経済や科学技術の変化、これらが吉と出るか凶と出るか、すべて偶然の出来事。人によって運不運があることは否定できないと思います。

 仮に不運だとしても、「易は窮(きわ)まれば変(へん)ず。変ずれば通(つう)ず。通ずれば久(ひさ)し」、つまり世の中は常に陰と陽が循環しているので、いつかはチャンスが来る。試行錯誤を繰り返しながらも、より良い選択をすることで、必ず道は開ける。そう考えれば、何があっても未来に希望が持てるのではないでしょうか。

 

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