メンターとしての中国古典
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紺碧の将

富と貴とは、是れ人の欲する所なり

2020.11.25

 論語より

「富(ふう)と貴とは、是れ人の欲する所なり。 其の道を以て之を得ざれば、処(お)らざるなり。 貧と賤とは、是れ人の悪(にく)む所なり。 其の道を以て之を得ざれば、去らざるなり」

 その意味は、「富と高い身分は誰もが欲するものであるが、仁や義などの徳のある良い行いで得たものでなければ、その富や地位に安住はしない。貧乏や低い身分は誰もが嫌うものであるが、仁や義などの徳のある良い行いの結果そうなったのであれば、貧しい境遇を受け入れて去らない」となります。

 

人の特性をどう活かすか

 

 さらに解釈を進めてみると、人として正しいこと、つまり人への思いやりや人として正しい方法での社会への貢献が伴わないお金や地位には価値がない。お金や高い地位がなくても、人として間違ったことをしていなければ悲観することも恥ずかしいと思う必要もない。このように、仕事やビジネス、そして人生の指針を示してくれているのがこの論語の一節です。

 また、豊かになりたいという人間の持って生まれた欲求は成長や進歩の源泉であり、社会の発展につながる。この人間の持つこの徳性(人間らしさ・持ち味)を最大限に活かすべきである。自然の世界では四季の変化を通じて新しい命を生みだし、成長して実りを生み出し、人や動物に恵を与える。自然界の一部である人間も同様に、創造的な活動で社会に貢献すべきである。そのような解釈もできるのではないでしょうか。

 

論語と算盤

 

 2024年から1万円紙幣の図柄に使われる渋沢栄一は、「日本資本主義の父」と呼ばれ、王子製紙、東京海上火災、日本郵船、東京電力、東京ガス、サッポロビール、JRなど生涯で約470社もの会社設立に関わり、まさに日本のインフラを作り上げた偉大な実業家です。

 もともと尊王攘夷派の武士でしたが、明治維新後は大蔵省に勤め、30代前半で実業家に転身しました。そんな彼の経営の規範となったのが道徳を説いた『論語』で、経営の神様といわれるドラッカーにも影響を与えたと言われています。

 渋沢栄一は、大正5(1916)年に『論語と算盤』を著し、「道徳経済合一説」という理念を打ち出しました。幼少期に学んだ『論語』を拠り所に倫理と利益の両立を掲げ、経済を発展させ、利益を独占するのではなく、国全体を豊かにするために、富は全体で共有するものとして社会に還元することを説きました。

 『論語と算盤』には、「富をなす根源は何かと言えば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。そして、道徳と離れた欺瞞、不道徳、権謀術数的な商才は、真の商才ではない。事柄に対し如何にせば道理にかなうかをまず考え、しかしてその道理にかなったやり方をすれば国家社会の利益となるかを考え、さらにかくすれば自己のためにもなるかと考える。そう考えてみたとき、もしそれが自己のためにはならぬが、道理にもかない、国家社会をも利益するということなら、余は断然自己を捨てて、道理のあるところに従うつもりである」と。

 

判断基準は「正しさだけ」

 

 ここで拙著「愚直経営で勝つ!」(PHP研究所)より、ある経営者の経営への考え方をご紹介したいと思います。

 

「タイミングを計りスピーディーに決断を下すために、社長が判断基準にしてきたのはシンプルに『正しさだけ』と言います。『そうすれば意思決定が簡単にできて、あまり悩まなくてすみます。正しい経営は迷うこともないし、楽なんです。どんどん処理が進むと自信さえ湧いてきます』。

この話を聞いて、私は強い衝撃を受けました。困難にぶつかると、テクニックやノウハウなどを求めて堂々巡りし、結局答えが見つからないことも少なくありません。ですから、この単純明快さがかえって新鮮でした。

「正しいことだけしていれば、経営者として後ろ指をさされることもなく、隠し事もありませんので、どこへでも堂々と出て行けます」

 周囲から見て、こういう信念がある人は強く映ります。

「もしごまかしていることがあれば、突かれたら痛いですからね。もっとも私にはごまかせるだけの知恵がないのですが(笑)」

この感覚を持つことで、不動産という不透明感のある業界の取引に不正を見抜く直感が敏感に働き、リスクを予防できる ようにもなると言います。

 人間は誰でも自分は正しいと思って行動するものですが、捉え方に大きなギャップが あってトラブルになることも少なくありません。

「正しさの基準は何か」と尋ねると、

「会社のことを長い目で考えたときに、良いことか悪いことかということです。目先の利益のために、嘘をついたり騙したりするなどは論外です。ごまかさない、隠さないという経営姿勢は周囲の信頼感につながり、協力者が増えていきます」

 

きれいなお金で子育てを

 

 さらに、この社長は「社員には正しい方法で稼いだお金で子育てをしてほしい」と言います。 不動産の業界は世の中にひとつしかない高額商品を扱い、条件も複雑ですから、相手が素人であれば、その気になればごまかしができます。しかし、社員にごまかしは一切させないと言います。それは、お客様との信頼関係のためだけではありません。

「社員もその家族も、きれいなお金で堂々と生活してほしい。子供はきれいなお金で、心の清い人間に育ててほしいという強い思いがあるからです。 会社として各部署売上目標は当然掲げていますが、目標達成のためには手段は選ばない、といったことはありません。利益より正しいやり方を優先します。また、業績はボーナスに反映しますが、不動産業界では当たり前の歩合給は一切ありません。つまり、お金のためなら何でもあり、というようなことは断じて許せないのです。人々が生活しやすいように人々が考え、結果つくられたのが通貨です。その通貨、お金に振り回されるのはとんでもない話です。

 そして、人間なので失敗することはある。失敗は許すが、ごまかしは許さないと言いま

す。

「この考え方は、利益を追求する会社としては甘いのかもしれませんが、正しさだけは譲れない」と社長は言います。経営理念に唱ってある「信用を重んじ堅実経営を旨とする」を確実に実践しているのです」

 

信頼はブランド

 

 利益を増やすには、ブランド力が必要です。つまり、ブンランドとは品質が高くてトラブルが少ない、そして利用者のイメージアップにもつながる。信頼でき安心して買えるからこそ、多くの人に支持され、少しぐらい高くてもお客は買ってくれます。そのほうが長い目で見れば割安になるとお客は考えるからです。

 一方、「安物買いの銭失い」と言われるように価格の安さといった目先の利益だけを求めると、長い目では損をします。

つまり、信頼を重視するお客は得をし、信頼を重視する事業は利益を最大化できる。これが世の中の真理であり、これが富貴の差を生み出す大きな分岐点とも言えるのではないでしょうか。

 

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