メンターとしての中国古典
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人を教うる者、要は須らく其の志を責むべし

2019.08.09

 この言葉は、『言志四録』の一節で、続きがあり、全文では「人を教うる者、要は須らく其の志を責むべし。聒聒(かつかつ)として口に騰(のぼ)すとも、益無きなり」となっています。その意味は、「人を教え導く者にとって大事なことは、その志の向う所―目的意識―を問うべきであって、細かいことをやかましく言っても無駄なことである」

 つまり、組織の長として人を指導する立場にある者は、部下や後輩の失敗や欠点を見つけてガミガミいうのではなく、その志(目的や目標、ビジョン、理想など)の有無や内容を問うべきだと言っているのです。

 

言志四録とは

 

 まずここで、「言志四録」について解説しておきましょう。

 言志四録の著者である江戸時代後期の儒学者・佐藤一斉は、卓越した学識を誇り、 幕府直轄の学問所「昌平黌」の儒官(校長役)を務め、その 広い見識は儒家思想のみならず陽明学、老荘思想、孫子兵法にまでおよびました。山田方谷、佐久間象山、横井小楠等 逸材を輩出し、西郷隆盛、吉田松陰、河井継之助等、薩長から幕府側まで数多くの幕末維新の偉人が影響を受けたと言われています。『言志四録』は一斎が40年以上に渡って書き連ねた「言志録」「言志後録」「言志晩録」「言志耋(てつ)録」の四巻、1133条に渡る箴言(しんげん:戒めの言葉)集です。

「言志四録」は、中国古典をベースにしながら、内容を咀嚼し、分かりやく編集されているため、この書より中国古典の思想を身近なものとして学ぶことができます。

 

志とは

 

 まず志はビジョンや理想、憧れを指しますが、幕末の志士である橋本左内が「啓発録」で以下のように述べています。

「志を立てるというのは、自分の心に向かい赴くところしっかりと決定し、いちどこうと決心したからにはまっすぐにその方向を目指して、絶えずその決心を失わぬよう努力することである。ところで、この志というものは、書物を読んだことによって、大いに悟るところがあるとか、先生友人の教えによるとか、自分が困難にぶつかり、発憤して奮い立ったりして、そこから立ち定まるものである。

 したがって、呑気に安楽に日を送り、心がたるんでいる状態では、とても立つものではない。志の立ち定まっていないものは、魂のない虫けらと同じで、いつまでたっても少しの向上もないが、いちど志が立って目標が定まると、それからは日に日に努力を重ね成長を続けるもので、まるで芽を出した草に肥料のきいた土を与えるようになる」

 

リーダーがまず自らの志を責めよ

 

 人を指導する立場にあるリーダーは、人をリードして導くのですから、どこへ導くのか目的地が明確になっていないといけません。

 家族で旅行に行くのであれば、東京ディズニーランドへ行くのか、ハウステンボスへ行くのか、目的地を決めずに出発することはありません。

 仕事でもどんな会社を作りたいのか、どんな事業をやりたいのか、部下にはどうなって欲しいのか、どんな職場を作りたいのか、など目標や方向性が定まらないとリーダーシップは発揮できません。また、自分自身がどんなリーダーになりたいのか、自己ビジョンがなければ自分を導くことができません。

 つまり、部下を指導する立場にあるリーダーは、まず自らの志を責める必要があります。

 

リーダーは、周りの人を笑顔にする人

 

 私はリーダーの定義を「職位ではなく、周りの人を笑顔・幸せにする人」としています。組織で役職がつけば、当然リーダーということになりますが、どこへ仲間を導くか、ここが肝要です。

 第二次世界大戦では多くの被害者が生まれました。ある調査では各国の亡くなった人の数を以下の通り報告しています。日本は310万人(うち市民の死者80万人)、ドイツは689万人(うち市民267万人)、アメリカ29万人(うち市民0)、ソ連2060万人(うち市民700万人)、中国1321万人(うち市民971万人)、これ以外にも東南アジアやヨーロッパの国々で多数の死者が出ています。死者には家族がいて、その影響は計り知れないものがあります。

 本来、政治家や軍隊の指導者は、国民の命を守り国民の幸福を実現することが使命であるはずです。しかし、彼らは自国の利益を謳いながら、国民に多大な不利益をもたらしました。これでは、リーダー失格と言わざるを得ません。

 

部下や後輩に「志」を問う効用

 

 組織で行われる教育研修は、知識やスキルを身につけるものが大半です。つまり、手軽に結果が出せる方法を身につけようということです。しかし、なぜその知識やスキルが必要か。それは会社が求める業績を早期に出すためであり、本人にとってどんな意味があるのかを考える前に答えを教えるというスタイルです。これは本末転倒で、必要を感じる前に会社から強制され、やらされ感の固まりで研修を受けることになります。これでは折角の機会も効果につながりません。

 大切なことは、自分は将来どうなりたいのかというビジョンを持って研修に望むことです。同じ内容の研修でも身につき方が天と地ほど差が出るでしょう。研修の被害者と感じるか会社に感謝するか、本人の志の有無が大きな分岐点となるのです。

 

細かい小言を言うデメリット

 

 では、なぜ細かいことをガミガミ言ってしまうのでしょうか。それを考えてみると、以下のような理由が考えられます。

・ガミガミ言うことで部下に対する優越感を感じる

・部下が試行錯誤して成長するのを待てない(イラチ、せっかち)

・部下が仕事を始める前のティーチングがうまくできていない

・自分がやった方が正確で早いと思う

・部下が失敗すると後始末が面倒と思う

 などなど、部下の成長より自分が可愛いと言うことではないでしょうか。

 つまり、これは器の小ささの証明に他なりません。

 

 また、部下は上司にガミガミ小言を言われるとどうなるのでしょうか。

・箸の上げ下ろしまで言われるとやる気が失せる

・あとで文句を言われるのなら、待ちの姿勢で指示を待って言われた通りにやった方が賢明

・自由度がなく、窮屈である

 など、モチベーションが大きく低下します。

 

「志」を持って始める

 

 仕事に限らず何かに取り組むときは、5W1Hが大切です。5W1HとはWhat、Why、Who、When、Where、Howです。一番大切なのは“Why”、つまり「なぜ?」、目的や目標、ビジョンを明確にすることです。

 しかし、我々はついつい何かトラブルがあると、「どうしよう? どうしよう?(How?How?)」とアタフタします。 しかし、本当に大切なのは対処方法(How)ではなく、なぜそれが起こったのか(Why)、なぜそれをするのか?(Why)かです。

 日常に埋没することなく「志」を考える時間をとって「志」を自問自答して、目的や目標を明確にした上で、毎日を有意義に過ごしたいものです。

 

 

Profile

三村 邦久

三村 邦久

1961年、兵庫県生まれ。

株式会社アイパートナー代表。中小企業診断士。著書に『「愚直経営」で勝つ!』(PHP研究所)、『豊かな働き方 貧しい働き方 自分と組織のマネジメント論』『うーにゃん先生の持ち味コーチング』(いずれもフーガブックス)。

株式会社アイパートナーHP

http://www.i-partner.co.jp

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