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紺碧の将
Interview Blog vol.89

農家として、母として、そして一人の人間として、強く楽しく人生を歩んでいく。

なないろ農園河村美幸さん

2019.11.25

 

「子供たちが笑顔になる食べ物を食卓へ」をモットーを掲げ、無農薬でお米や大豆を栽培するなないろ農園の河村美幸さん。農業を始めるまでには心にさまざまな葛藤を抱えていました。「母としての自分でしかなかった時、立場的・経済的に働く必要はなくても、社会から置き去りにされている感じ、モヤモヤしている気持ちがありました」と河村さんは言います。そこから自立を目指し、農業を始めた理由とはどのようなものだったのでしょうか。

農業の魅力

お一人で農業をやっているんですか。力仕事も多いと思いますし、大変なことだと思います。

 基本的には一人ですが、心配した両親が手伝ってくれることもあります。女性一人で大変だと思われますが、実際にやってみると楽しいんですよ。実家はもともと兼業農家で、子供の頃に田植えの手伝いをしていました。天気がいいと青い空と近くの山がよく見えてすごく気持ちが良いんです。自然の中で体を動かすのが好きな性分なんでしょうね。

 確かに暑い時期は大変ですけど、楽しさの方が勝っています。本当にやりたいこと、進むべき道にやっと出会えたと思っているんです。

なないろ農園の大きな特徴はどんなところにありますか。

 農薬・化学肥料・除草剤不使用のいわゆる無農薬栽培であるところです。今はお米と大豆の栽培を手作業でやっています。田んぼは手植えで、除草も手で取っています。無農薬栽培は除草が大変だとよく言われますが、私は手で取っていくのがむしろ好きで。田んぼの中に入って状態を見ながら稲に話しかけたりしています。おかしいって言われますけど(笑)。

女性農家ならではの目線もあると思います。

 食を握っているお母さんの目線で考えられるところですね。直接販売をしていますが、販売先を探すのに困ったことは一度もありません。イベントに参加したり、学びの場に行くことでつながりができ、その中でなぜ無農薬にこだわるのか、どういう想いで作っているのかをお話しすると共感していただけるんです。

学びの場ということは、今もなお農業についての学びを積極的にしているんですね。

 民間稲作研究所に有名なお米づくりの先生がいらっしゃるんですが、そこで月に何回かある研修に参加させていただいたり、他にもさまざまですね。勉強の場があれば定期的に顔を出すように心がけています。

 一つのやり方を学んでも毎年確実にそれが通用するとは限らないんです。その年によって田んぼや畑の状態は違いますからね。いろいろなやり方を学び、その中で自分に合ったものを吸収していきたいと思っています。やはりやりたいこと、心から興味があることは学ぼうと思う気持ちが強い分、吸収が早いです。

そう思えるほどの農業の魅力はどんなところに感じますか。

 もちろん楽しいことが前提ですが、その上で作った農作物を食べていただいた時の皆さんの感想がとても嬉しいです。特に子供たちが美味しいって言いながら食べてくれると、ますます頑張ろうという気持ちが湧いてきます。農業は年齢関係なくできますから、体力の持つ限り、ずっと続けていきたいです。

自分のやりたいことを考える、興味を持ち続けることが道を拓く

ご実家が兼業農家でその手伝いも好きだったというお話ですが、やはり子供のころから農業という仕事を目指していましたか。

 農作業自体は好きでしたが、就農するとは想像もしていませんでした。子供が好きで、本当になりたかった職業は保育士だったんです。でも勉強が苦手で……。一方で料理も好きだったため、調理師専門学校へ進学しました。幼稚園や保育園で調理をする仕事を目指していましたが、なかなかそういう仕事が見つからず……。それに若い頃は遊んでばかりで、せっかく専門学校へ行かせてもらったのに勉強はほとんどしていませんでした。

 卒業後も道が定まらず、いろいろな職を転々としました。

子供に関わる仕事を諦めた一方で、では何をやったらいいのかを模索していたわけですね。

 自分に合う仕事をずっと探していました。その中で一番長く続けたのが運動系のインストラクターでした。食・健康・子供にずっと興味がありましたから、運動をして健康になることを伝える仕事が合っていたんだと思います。やはり食や健康の分野に携わっていきたかったんです。ただ、会員数を増やすことも仕事の一つで、その部分だけがどうしても合わなくて……。結婚をして4年ほどたっていましたから、それなら夫の会社を手伝おうと思い、退職しました。

 ところが手伝い始めて一ヶ月くらいで長女を妊娠し、夫が「動かないでいい」って心配をして(笑)。それからは会社の手伝いもせず、特に何もしていませんでした。

しばらくは育児に専念する期間になったわけですね。

 長女が幼稚園に入園するまで、3年間は仕事もせずに子育てに専念して過ごしていました。

その後、本格的に農業の道に入られています。そのまま家庭に専念しても問題はないと感じてしまいますが、それでも農業を始めたいと思ったのはどうしてですか。

 理由はいくつかあります。一つは金銭面において、すべて夫に頼るのではなく、自分の力でお金を稼ぎたいと思ったからです。お互いに一人の人間として自立し、その上で一緒に支え合う家族として歩んで行きたかった。一方的に養ってもらうのではなくて、夫に万が一のことがあっても私が支えてあげられるくらいの強さが欲しかったんです。

 あとは子供が産まれたことで食と健康について益々興味が湧いてきたことも理由の一つです。子供が離乳食を食べるようになって、添加物が気になり、食の勉強を始めました。やはり食と健康を伝える仕事をしたいと強く思いましたが、講師やアドバイザーの自分は想像できなくて。そこで子供の頃に農作業が好きだったことを思い出したんです。「食の元」を作る農業なら合っていると思い、就農に向けて動き始めました。

無農薬にこだわる理由も食と健康の関連性を伝え、子供に安全で安心な食べ物を食べさせたいという想いからだったんですね。ずっと興味を持ち続けていた食・健康・子供がここで一つになりましたね。

 そういう思想がずっと根底にあったからこそ、「自分がやりたいことは農業なんだ」と理解ができた。だから道が拓けたんだと思います。

 ちょうど長女が幼稚園に入園して時間ができたため、無農薬栽培の研修先を探し始めました。そしてご夫婦で農業をしている爽菜農園という有機農家さんで1年間研修をさせてもらいました。

プロの農家として、母として、一人の人間として

いよいよ農家としてスタートを切ったわけですね。研修をしてみてどう感じましたか。

 無農薬の知識はまったくなかったため、実家での農業とは全然違うと思いました。クワの使い方も分からない状態からのスタートで、本当に一から学ぶ研修でした。お米の他に野菜や大豆も作っていて、学べることが多く、いい研修をさせてもらいました。

旦那様は農業を始めることについて何かおっしゃられましたか。

 「人生は一度きりなんだからやりたいことがあるなら挑戦したほうがいいよ」と言ってくれました。会社の方を手伝ってほしい、家事に専念してほしいなど、そういうことは言いません。農業が忙しいときに家の中が散らかっていても理解してくれて、むしろ手伝ってくれます。挑戦したいという気持ちを応援してくれる人なんです(笑)。

 

本当にやりたいことに出会えた今、農業をする前と後で考え方や価値観などが変わったことはありましたか。

 子育て期間中の3年間は「母としての自分だけが存在意義」という感覚しかなく、なんだか社会から置き去りにされているようでした。もちろん働かなくても経済的に問題はありませんし、専業主婦という立場は何ら恥じることはないはずです。それでも、ずっと虚無感に襲われていました。何かやらなきゃ、動き始めなきゃという気持ちが日に日に大きくなっていき……。

 でも農業を始めてからは母としてだけではなく、一人の人間としても誇りと自信が持てるようになりました。娘からも「お母さん前より楽しそうだね、元気だね」って言われるぐらい変化はあったと思います。

プロの農家として、これからの将来像はありますか。

 自立したプロの農家である以上、経営者でもあります。今は実家の施設と設備を借りていますが、故障や買い替えにはお金がかかりますし、設備投資も考えていけるようになりたいです。利益よりも食べてもらいたい気持ちの方が強く、自分で価値を下げてしまいがちなため、継続的に農業を続けていくためにも、そのへんの切り替えをできるようにしないといけませんね。「経営」と「想い」のバランスを上手にとっていきたいです。

 あとは新たに小麦も作りたいと思っていますし、加工品にも興味があって、6次産業にも目を向けていきたいです。やりたいことはまだまだいっぱいあります(笑)。

 

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