メンターとしての中国古典
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紺碧の将

善く戦う者は、之を勢いに求めて、人に責めず

2021.03.31

 この言葉は「孫子の兵法」の一節で「良い結果を残すリーダーは、チームの勢いによって成果を得ようとし、人の個々の力に頼ろうとはしない。」という意味です。結果が良くない時には、犯人探しをして誰かを責めることが少なくありません。しかし、個人の力量だけに頼るのではなく、勢いつけることで持てる力以上の結果が導けるというのです。

 

駅伝に見る勢いの大切さ

 

 日本人が好きな駅伝。各区のランナーは一人で走りますが、襷をつないだチームの総和で勝敗が決まります。チームの平均タイムが早いチームが有利なことは間違いないようですが、結果は持ちタイムでは決まるわけではありません。

 まず、ブレーキがなく各ランナーが持てる力を出したチームが有利です。また、どこかで先行して2位に大きなリードを作ると、次のランナーが余裕を持って走って好タイムを生みます。好走が次の好走を引き出すという好循環が勝利を導きます。一方、差をつけられたチームは無理をして突っ込み、後半で失速して結果として差が広がってしまうケースが少なくありません。スーパーエースがいても勢いをつけたチームを打ち負かすことは難しと言えます。これが勢いが勝敗を分ける典型的なケースでしょう。

 

勢いがあると

 

 では勢いがあるとどのようなメリットがあるかというと、軽快でリズムが良く加速して速く動ける。そして突破力が高まる。しかも、使用エネルギーが少なくすみ、周りや運をも引き寄せる。スポーツでも仕事でも勢いがつくと自信に満ち溢れどんどん良い結果を出していきます。

 一方、勢いがなくなると、動きが重くてリズムが悪い、加速しない、壁に阻まれてしまう。そして多くのエネルギーを使っても結果が得られない。自信をなくし本来の力が発揮できなくなる。失敗を繰り返すと犯人探しが横行し、重い空気に包まれてしまいます。

 

運動量=質量×速度(P=mv)

 

 勢いの重要性は物理学で考えると明らかです。物体の運動は、物体の速度が大きいほど、また物体の質量が大きいほど激しくなります。例えば、物をぶつけて何かを壊そうとするとき、速度が大きいほど、質量が大きいほど、つまり運動量が大きいほど壊しやすいのです。逆に運動している物体を静止させようとするとき、速度が大きいほど、質量が大きいほど、つまり運動量が大きいほど静止させにくいです。

 物体の運動量をP、質量を m [kg] 、速度をv[m/s] 、速度の向きが運動量の向きであると定義するとP= mvと表されます。

 運動量を勝負の強さ、質量を能力の総和、勢いを速度と置き換えると、同じ能力でも勢いによって強さが決まるということです。

 

天の時、地の利、人の和

 

 勢いをつける、つまり速度を増すには、天の時つまり追い風が吹いていることが肝要です。今回のコロナ禍でも逆風が吹いて減速している会社が多くありますが、コロナ禍が追い風になって加速している会社もあります。向きを変えてうまく風を捉えることが戦略の巧拙となります。

 次は地の利、つまり高く有利なポジションにいると下に向かって加速できます。日頃から力を蓄え、有利な高い位置を獲得していることが大事です。そして人の和、つまり一体感です。組織がバラバラだと動く方向がバラついて加速しません。組織のベクトルを合わせることが肝要なのです。

 このように勢いというものをマクロ的に考えた場合は、天の時、地の利、人の和から考える必要があります。

 

組織に勢いをつけるには

 

 人の和、つまり組織に勢いをつけるにはどうするか。まずは、組織のメンバーの目線を合わせるために価値観や目標を明らかにすることです。次に、その目標に到達するためのシナリオや計画を明らかにする。さらに持ち味を活かす役割分担を決める。そうするとメンバーの一人ひとりが自分の得意な分野で得意なやり方で自信を持って楽しく軽快に動けるようになります。さらに、指示命令の目的と行動がわかりやすく、迷いがない状態を作る。そして、その実行プロセスや結果に対する承認、ポジティブなフィードバックを行う。そうすれば自ずと組織に勢いが生まれます。

 

個々の勢いをつけるには

 

 組織の勢いは個人の勢いの総和です。ではどうすれば個々人の勢いをつけられるのか。

 まずは前向きな明るいことに焦点を当てて、笑顔でリラックスし、力の出やすい状態を作る。日頃から能力とモチベーションを高めエネルギーを蓄える。時には背水の陣で覚悟を決める。つまりネガティブな感情をポジティブに反転させる、つまり反動の力を使う。そして、決めたきことは最後までやり抜く習慣をつける。そして小さな成功を積み重ね自信をつける。さらに、成功体験を積み重ねながら自分の勝ちパターン、得意の型を作っていく。相撲でもそうですが、力士にはそれぞれ得意の型があり、自分の型に持ち込むことで勝利をものにします。突き押しの得意な力士、四つに組むのが得意な力士、変幻自在な動きで相手の意表を突くのが得意な力士。持ち味はさまざまです。そうやって勝ちを重ねることで、自信を深め勢いをつけ勝ち星を重ねて行くことになります。元気で躍動的な力士が増えると、相撲に注目が集まり、相撲界全体が盛り上がり勢いを持つようになります。

 

リーダーの分岐点

 

 こう考えていくと、チームに勢いをつけることに焦点を当てたマネジメントに集中しているのが良いリーダーであり、勢いを削ぐ言動をとったり、犯人探しをするのが悪いリーダーということになります。

 そもそもマネジメントとは、持てる経営資源を最大限に活用することであり、中でも人の持てる力を最大限に活かすことが肝です。人の能力とモチベーションを高め、チームの和の力を活かす。これはみんなが知っている当たり前のことですが、実践している人は稀でしょう。より良いリーダーシップ、より優れたマネジメントを考える際に、「勢いづける」という視点で取り組んみると、今までと違うレベルに到達できるのではないでしょうか。

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