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紺碧の将

年々去来の花を忘るべからず

世阿弥

 日本最古の教育書ともビジネス書とも言われる世阿弥の『風姿花伝』。その第七「別紙口伝」より抜粋した。能の確立者である観阿弥の長男として生まれ、十代にして時の将軍、足利義満に見出された世阿弥は、室町時代において芸人という最下層の出自ながら、文学や歴史、仏教などを極め、芸に昇華さるという偉業を成し遂げたツワモノ。この伝書は処世術としても読んでほしい。
 
 世阿弥といえば、「花」。
 そして、「初心忘るべからず」。
 
 誰もがよく知っていて、一番忘れがちになることがこれではないか。
 初心を忘れた者は傲慢になり、また卑屈にもなる。
 傲慢になれば足元をすくわれ、卑屈になれば気力が失せる。
 
 物事はすべからく陰と陽で成り立っており、人生には順調と不調という波がある。
 その波に飲み込まれるのか、それともうまく波に乗れるのかは、
「初心」に戻れるかどうか。
「初心」を忘れなければ、人生の波も乗り越えてゆける。
 
 世阿弥がこだわる「花」は「初心」なくしてありえない。
 花は四季折々に咲くものであり、
 その時々で新鮮な感動をもたらしてくれる。
 それゆえ人は花を愛でるのだと世阿弥はいう。
 
 しかし、その花も自然の理どおり、やがて散る。
 咲くからこそ散るのであり、散るからこそ咲くときがある。
 やがて散る花と知るがゆえに、初心に帰ることができるのだ。
 
「抑花というふに万木千草において四季折節に咲くものなればその時を得てめずらしき故にもてあそぶなり。
 ……いづれの花か散らで残るべき。散る故によりて咲く比あればめづらしきなり」
 
 移ろいゆくのは花だけではない。
 人の一生、一年、一日、一分一秒。
 春夏秋冬、生々流転。
  

 よって「年々去来の花を忘るべからず」なのである。
 
 毎年、毎年、咲いては散る花を忘れてはいけない。
 いつなんどきも「花」の心で取り組んでいれば、
 傲慢にならず、卑屈にもならず、平常心で本来の力が発揮できる。
 
 花を知ることは、初心を知ること。
 初心を知ることは、花を知ること。
 
 初心を忘れそうになった時、四季折々の花を愛でてみよう。
 世阿弥の声が聞こえてくるかもしれませんよ。

 

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(191021 第585回)

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