偽りの自分を愛されるより、ありのままの自分を憎まれる方がましだ。
アンドレ・ジッド
個性を重んずるフランス人であり、かつ背徳的な作風で知られるジッド。
引用の名言はいかにも彼らしい言葉だ。
「愛されたい」とは多義的な言葉であって、必ずしも恋愛にまつわる話に限らないが、多かれ少なかれ、人は、「誰かに愛されたい」という願望を抱きながら生きている。
そして「愛されたい」と思う特定の相手がいる場合、人は、ほとんど常にと言ってよいくらい「偽りの自分」=「意中の人が気に入るであろう自分」をあれこれ妄想し、演じてしまうものだ。
だが、偽りの自分を演じて得られる愛は、所詮偽りのもの。そこにあるのは「依存」だからだ。
仮面を脱ぎ捨て、虚言を遠ざけ、己の足で大地を踏みしめて歩く姿を見せた結果、嫌われ、憎まれたのだとしたら、その意中の人は、人生の貴重な時間を共有する同士ではなかったということだ。
これは恋愛にかぎったことではなく、人間関係そのものにも敷衍できる。
(130502第72回)