本当の旅の発見は新しい風景をみることではなく、新しい目をもつことにある。
マルセル・プルースト
そこが地の果てだろうが世界遺産だろうが、帰路につくあなたの顔に、あなたの知らない別のあなたの眼光が宿らないのならば、それは旅ではなく暇つぶしに過ぎない。
プルーストがそこまでいっているわけではもちろんないのだが、そう拡大解釈したくなるほどに、プルーストの言葉はまったく正しい。そして耳が痛い。
なぜかといえば、旅と称した「暇つぶし」をむさぼる人々が、ことのほかわれわれ日本人に多いような気がするからだ。
プルーストのいう「新しい目」が視点や価値観の変化を意味するのなら、遠方に出向くことなく、見慣れた風景のなかでも“旅”は可能だ。
気持ちのありよう次第で、人はいつでも旅人になれるのだ。
珠玉のエッセイ『街角の煙草屋までの旅』で、吉行淳之介もそう綴っている。
(130228第64回)