明日の予定はわからない。それは自然が決めることだ
NHKの新番組「心おどる あの人の本棚」で、探検家の角幡唯介(かくはたゆうすけ)氏がイヌイット族の言葉を語っていた。
本来、生きものとはそういうものなのだろう。ところが、人間だけが高度な脳を得て、そうではなくなった。自分たちの創意と工夫によって、それまで不可能だったことを可能にしてきた積み重ねが文明であり、それ自体は素晴らしいと思うが、行き過ぎるとどうなのか。いつしか人間は自然界を自由に操作し、必要とあらば破壊してもいいと勘違いするようになった。生態系における弱肉強食は自然の摂理だが、人間だけがその範疇を逸脱して、ほかの生き物の命を自在に扱えると思い込むようになってしまったのだ。
傲慢にもほどがある。いつしか、そのしっぺ返しがくると信じて疑わない(そうなることを望んでいるわけではないが)。
そういえば、「心おどる あの人の本棚」という番組は、じつに面白かった。各界で成し遂げた人たちの本棚を紹介するという趣旨の番組だが、「なるほど、それらの本はこの人の血肉になっていたのか」と納得することばかりだった。
しかしこの番組、あっという間に終わってしまった。NHKは予算の大幅減を強いられているのか、BSプレミアムがNHK BSに統合されて事実上消滅し、地上波のEテレも魅力的な番組が激減してしまった。じっくり腰を据えて良質の番組を創ってきたプロデューサーや制作会社の仕事が激減していることだろう。
またひとつ、貴重な文化が終焉を迎えた。
(250615 第880回)
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