メンターとしての中国古典
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善く戦うものは人を致して人に致されず

2019.04.28

 この言葉は、「孫子の兵法」に出てくる一節です。なにごとも主導権を取ることが大切で、そうすれば自分が人を動かせる立場になれるが、反対に相手に主導権を握られると相手に振り回されてしまう、ということです。

 孫子は戦争の戦い方を説いた戦略書ですが、戦わずして勝つことを旨としています。つまり平和主義の戦略書なのです。この考え方は、現在でもスポーツなどの勝負ごと、優勝劣敗のビジネスにも応用できることがたくさんあると思います。そして、個人の働き方や人生においても有意義な示唆を与えてくれます。

 

スポーツは先手必勝

 

 高校や大学の駅伝の大会を見ていると、第1区間に優秀な選手を配置します。最初にリードを奪うことで第2走者以降も余裕を持って走ることができ、良い成績を残そうという作戦が見て取れます。

 サッカーJリーグでは、2003年〜2016年の全4152試合のうち、0ー0で引き分けだった274試合を除いた3878試合中、先制点を奪ったチームが勝利したのが2611試合、つまり勝率は67.33%だそうです。先手必勝の法則がデータに表れています。他にもテニスや卓球などはサーブ権を持つと、自分のプランでゲームの組み立てができ、圧倒的に得点確率が高まります。将棋も先手番が有利と言われています。

 勝負ごとでは先にリードすることで主導権を握り、自分のペースでゲームを運び、相手に余裕を与えず焦りを誘い、勝利を手に入れることが勝利の法則です。

 

交渉の主導権を握る

 

 仕事には説得、商談、折衝、調整など、利害や物事の成否を分けるが交渉ごとがあります。交渉で良い結果を得るためには、事前に有利な状況を築いておいて、自分が主導権を握り、相手の弱みを突き、有利な条件を引き出すことが肝要です。主導権を維持しながらも、勝ちを急がず余裕を持って待つこと、これも大きな実りを手にする秘訣と言えるでしょう。

 

ビジネスは「機を見るに敏」

 

 ビジネスの世界では、好機到来にしっかり備え、ここぞという時には俊敏な動きでチャンスを手に入れることが重要です。新しい事業を進める際には、準備段階で悲観的に考えリスクを洗い出し、何通りものシナリオを準備する。いざ行動に移すときは楽観的に迷いなく一気呵成にやり遂げる。

 そこで優位なポジションを築き、さらに次の手を繰り出し、ステップアップして行く。これが事業成功の要諦です。

 

受け身(主導権放棄)のリスク

 

 主導権の有無が有利不利や損得を決定づけるにもかかわらず、受け身で毎日を過ごしている人たくさんいます。相手に合わせ指示に従えば、何も考える必要もないし、責任を問われることもないでしょう。

 特に出来上がった組織で働いていると至れり尽くせりで、組織からやるべき仕こと、自分の給料、業務上の判断、そして住む場所など私的なことまで会社が決めます。これでは自分の自由意志で考え行動する習慣がなくなり、自発的で積極的な思考や行動の能力が退化、自分の意志で動く力を失ってしまいます。

 これからは会社を離れてからも長く生きる長寿の時代で、主導権を握る力を弱めることは人生にとって大きなリスクではないでしょうか。

 

自由意志が働く喜びに

 

 生涯現役の時代を目前に、仕事をイキイキ楽しいものにするには、自らの意思で考え、自由度を持って行動、仕事に没頭し、結果を出して達成感を味わうことが大切です。達成感は自信につながり、次のチャレンジへの原動力になります。チャレンジが人生を切り拓き、人生成功への善のスパイラルに入って行きます。

 一方、働く上での最大の問題は「やらされ感」です。つまり、自分の意思ではなく、押しつけられた状況で働くことです。組織は社員に給料を払っているわけで、最低でも給与分は働いて欲しいと思うのは当然のことです。しかし、受け身で主体性や積極性がなければ、組織はその人を管理しようとします。つまり、命令を下し、チェックし、指導するという行為です。人に命令され管理され窮屈に給料のためだけに働くのは悲劇です。

 では、いかに主導権を握るのか、その方法を考えてみましょう。

 

主導権を握る① 先手で提案する

 

 まずは、言われる前に先に提案することです。これは私が社会人になった時から心がけていることです。私はヘソが曲がっていることもあり、人に言われてやることが大嫌いです。同じことをやるのならば、言われる前に先に提案して、自分の意志としてその仕事に取り組む状況を自分で作って来ました。

 そうすると他の誰もが考えていない、そして誰もやったことのないことに取り組むこととなりました。

誰も教えてくれる人がいないという不便さもありましたが、お陰で外部の人や書物に広く知恵を求める習慣ができました。また、先頭で風を切って走っている爽快感も味わえました。

 このような考え方をするようになったのは私の性格に起因するものですが、学生時代に属していた卓球の部活で、先輩から「三村。守るな! 攻めが遅い! 先手を取れ!」と耳にタコができるほど指導されたことも大きな要因となっています。

 

主導権を握る② 長期的視点で深掘りする

 

 主導権を握るには「力」が必要です。力とは幅広く深い知識と経験。そしてどんな状況にも対応できるさまざまなスキル。そして心を乱さない信念です。これらは一朝一夕に身につくものではありません。長期的な取り組みが必要です。

 私は経営コンサルの仕事を30年してきましたが、目標は当初より「いい会社」を作ることのお手伝いです。営業専門のコンサルを目指したわけでも、人事専門のコンサルを目指したわけでもありません。いい会社を作るためには、経営の多様な知識やスキルを身につける必要があります。私はこれまでの30年間で情報システム、経営戦略・計画、事業創造・ベンチャー、人事制度、組織風土、人間力と能力の開発などの順次取り組み、経営の多様な問題を解決できるようになってきました。どんなテーマに取り組むにせよ、その多面的複合的な対応力が自分の優位性につながっていると思います。特に中国古典からの学びは、間違ったことはしていないという自信を身につけさせてくれました。

 

主導権を握る③ 自分の持ち味を活かす

 

 先手を取るにしても長期的に深掘りするにしても、自分が興味があって好奇心が動かされるテーマに取り組む必要があります。私の場合、高校2年生の時に第2次オイルショックがあり父が失業しました。大学受験の目前にして、大きな不安と葛藤に直面することになりました。その時に会社は社員を守らなければならない、そんな強い怒りにも似たマグマのようなものを体の中に感じました。

 そして就職してからは、目の前の問題への解決方法を考えながら、経営の本質に目を向け勉強するようになりました。もちろん、誰に指示されるわけでもなく。その頃から、自分は組織の中で業務をこなしていくよりは、組織の外から組織を良い方向に導いていく役割を果たすことを志向してきました。

 これは、自分の心の中から自然に生まれたベクトルであり、自分が好きで楽しいと思えること、つまり自分の「持ち味」を活かして来たのではないかと思います。

 主導権を握ることは簡単ではありませんが、いい人生を送るために長期的視点で自分と対話しながら戦略を立てて愚直に取り組むことが大切ではないでしょうか。

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