名勝の景は美しいが、真に美しいのは心が静かなことである
日本画家、不染鉄の言葉だ。寺の息子に生まれ、画家としておよそ60年もの間各地を転々として創作を続けた不染鉄。ありのままの風景と、心に残る美しい心象風景を描いた緻密で詩情あふれる作品は、彼の人となりを表すかのように優しい。「幻の画家」と言われるように、不染鉄の作品も名もあまり知られていないようだが、それは、あまりにもったいない。
景の色は心の色。
心の色が変われば景色も変わる。
心が映しだすままに、眼前の風景は移り変わる。
どんなに美しい風景も、心が荒んでいては美しく見えない。
逆もまた然りで、心が清らかであれば、どんな風景も美しいと思えるだろう。
自然はただそこにあるだけなのに、人によって見え方が違うのは不思議。
人の数だけ風景があるのにちがいない。
心の状態はすぐさま体にもあらわれる。
落ち着きのない行動も、キョロキョロ動く目も、上ずった声や早口もそう。
心がざわざわと波立てば、体もそれにならってせわしなくなる。
閑座聴松風(かんざしてしょうふうをきく)
心静かに座して耳をすませば、松の間を渡る風の音が聞こえてくる。
心が穏やかであれば、自然はありのままの姿を見せてくれる。
自然が創りだす芸術ほど美しいものはない。
その一部である人間が創りだす芸術もまた、本来は美しい。
「見るもの皆鏡である。心を清くすれば、鏡がよければ皆美しくうつる。不浄なれば皆きたなくうつる。芸術はすべて心である。芸術修業とは、心をみがくことである」
美しい風景は、心の静けさの中にある。
(180609 第438回)