灯りを消す方がよく見えることがある
18年間も有効な処方箋などあるだろうか。
平成10年に初版が発行され、28年の今年4月で44刷となる河合隼雄氏の著書『こころの処方箋』には、現代人の抱える悩みを対症療法ではなく、根本から治そうとする根本治療に焦点が当てられた薬が満載である。その薬のひとつがこの言葉だ。
河合氏が子供の頃に読んで印象に残っていた物語だという。
数人で海釣りに出かけて夢中になっているうちに、気がつくと夕闇がせまっていた。慌てて帰ろうとするが潮の流れが変わって方角がわからなくなってしまった。どんどん夜は更け、月明かりもない海上は真っ暗闇に。必死で灯をかかげて方角を確かめても見当がつかない。
そのとき、一人の知恵者が言った。
「灯を消せ!」と。
何を言い出すかと一同は思ったが、気迫に押されて灯を消した。
あたりは闇に包まれたが、しだいに目が慣れてきた。
するとどうだろう。真っ暗な中、遠くにぼんやりと町の明かりが見えるではないか。
「あっちが帰る方角だ!」
大喜びした一同は、無事、帰路につくことができたのだった。
人は不安になると無駄な動きをしてしまう。
お先真っ暗などと言って手当たり次第に灯りをもってうろうろしても、目指す方角は見失うばかりだ。
そんなときは、手にしている灯を消してみよう。
暗闇にじっと目をこらせば、そのうち目は慣れてくる。
まわりの灯にばかり頼らずに、自分の目を信じて闇の中を歩いてみよう。
(160601 第201回)