やさしさの根本は死ぬ自覚です
河合隼雄
人びとの悩みに寄り添い、最期まで個人の物語に耳を澄ましつづけた臨床心理学者の河合隼雄氏。生前、氏は作家や音楽家との交流も多く、その信頼は厚かった。
氏が遺した数々の著書を開けば、ユーモアーたっぷりの言葉の中に、愛情深い氏の人となりが垣間見える。
本当の優しさは、どこから生まれてくるのだろう…。
そう考えたとき、ふと頭に浮かんだのは、「地球」だった。
生命を誕生させ、命を育み、死に向かわせる。
この一連は、新たな生命を生み出すためであり、命をつなげていくためである。
生命体である地球は、ひとつひとつの小さな命を守りつなぐために、あらゆる試練を受けとめ、愛情をそそいでくれる。
空気を与え、水を与え、食物を与え、互いが支え合いながら生きていけるようにと。
都合のいいことばかりが良いわけではない。
どんなに理不尽だと思う出来事も、それはやがて成長した自分と出会うためであり、ひいては未来を生きる新しい命のためである。
山川草木悉皆成仏。
命あるものは死んでゆく。
あなたもわたしも。犬も猫も。草も花も。
どんなことがあろうとも、やっぱり互いに死んでゆく身なんだと思えたら、瞬間的な出会いでも、目の前の命に対して慈しみの心が芽生えて優しくなれるのではないだろうか。
(160514 第195回)