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紺碧の将
Interview Blog Vol.92

アンティークは慈しみそのもの。ショップサイト「cocorobae」から慈しみの連鎖をつなげたい。

cocorobae管理人鳥毛美雨さん

2020.01.10

アンティークショップサイト「cocorobae」管理人、鳥毛美雨さん。父親は、本欄でもご紹介した一般社団法人日本美術工芸協会の代表理事を務める鳥毛逸平氏。骨董好きが高じて美雨さんを巻き込み本サイトを立ち上げられました。唯一無二の「モノ」との出会いを求めて親子で骨董市を巡っているうちに、美雨さんも古いものに魅せられていったと言います。

若者世代を中心に「モノ離れ」が進んでいる一方で、古いモノに価値を見出す若者も増えています。人によって大切に使われてきたアンティークなモノは慈しみそのものだと言う美雨さんに、若者を代表して古いモノへの思いを語っていただきました。

心が映えるもの

「cocorobae」という名前は「心が映える」という言葉が発端だそうですね。

 はい。人の気持ちがモノに映える、モノに触れて人の心が豊かに映えるという意味を込めて名付けました。名付け親は父ですが、父と一緒に骨董市を巡っているうちに、私も「心が映える」という意味がなんとなくわかるようになりました。何十年、何百年も時を経て今ここにあるものは、それを大切に使ってきた人がいたからで、もしもぞんざいに扱われていたとしたら、今まで残っていなかったかもしれません。そう思うと、大切にしてきた人の思いが伝わってくるような気がして、こちらまで暖かい気持ちになります。

若者の「モノ離れ」が叫ばれる中、最近は古いモノに興味をもつ若者も増えています。美雨さんが古いモノに惹かれる理由はなんですか。

 古いモノは新しいモノにはない風合いがあって個性的なものが多いです。大学の4年間は古着屋でアルバイトをしていたのですが、若い人たちに古着が人気なのも一点一点が個性的で、おしゃれな着こなしが出来るからだと思います。古いモノというのはだいたい一点ものですから、それだけ価値もあり、特別感が増しますよね。それに、アンティークなモノはそのまま使ってもいいし、本来の用途では使えなくなったモノでも自分なりに工夫してまったく違う用途として使えるという楽しみもあります。人それぞれ、どんな楽しみ方をしてもいいというのはアンティークならではだと思います。

もともと工芸や美術に興味があったのですか。

 美術や音楽など、芸術や文化には昔から興味はありました。高校は女子校でしたが、その学校を選んだ理由も文化祭に行って感動したからです。催しをしている先輩たちがキラキラ輝いていて、私も文化祭に参加したいと憧れました。実際、入ってみると、文化祭だけでなく校則なども先生が介入することなく、何ごとも生徒だけで考え、決定してくという自主自律の校風で活気がありました。そういう校風が私に合っていたようで、高校生活はほんとうに楽しかったです。

上司と部下と親子のかたち

お父様のお人柄もあると思いますが、お二人はとても仲がいいですよね。お二人のやりとりを見ていると微笑ましくなります。親子で仕事をするとなると、オンオフの切り替えも大変かと思いますが、いかがですか。

 そうですね。父は家には仕事を持ち込まない人ですから、今まで仕事の話は一度も聞いたことはありませんでした。一緒に仕事をするようになってからは上司と部下という立場もあり、厳しく指導を受けることもあります。仕事中は言葉遣いなども気をつけるようにしていますが、家に帰ればいつもの父と娘の関係にもどります。家では父のことを「ごまちゃん」と呼んでいるんですよ(笑)。ごろごろしている姿があざらしのごまちゃんに似ているんです。父もまんざら悪い気はしていないみたいですね。

そうですか(笑)。お父様は大阪生まれの大阪育ちだと記憶していますが、美雨さんもそうですか。ご兄弟もいらっしゃいますよね。

 はい。兄と弟がいます。私は大阪で生まれて、幼稚園の頃に東京に引っ越してきました。父は仕事で不在がちだったため母といる時間が長く、絵を描いたり物語をつくったりするのが好きでした。当時書いた文章を読むと、将来の夢は「優しいお母さん」って書いてあってびっくりしました(笑)。

 今でも絵を描いたり、ものを書いたりするのは好きで、夢中になると時間を忘れます。お気に入りのペンとノートを前にすると、何を書こうかとワクワクします。日記は書きませんが、思ったことや感じたことをメモのようにノートに書き留めています。特に今は、社会人として日々学ぶことが多いですから、書くこともたくさんあって、それがまた愉しいです。

書く習慣があるのはいいですよね。明文化すると、思考がすっきりまとまります。絵を描くのが好きだということですが、大学は美術系ですか。

 4年制の一般大学です。美術系か一般か迷ったのですが、よくよく考えた末、一般の大学を選びました。絵を描くのは好きだけど、かといって画家になりたいわけではないし、デザインとなると自分はアイデアマンではない。だとしたら美術系の大学では将来的に仕事に結びつけるのは難しいんじゃないかと思い、選択肢の幅がある一般大学に進もうと決めました。

大学生活で特に思い出はありますか。

 写真サークルに入ったことでしょうか。写真を撮るのは好きでしたが、機材や暗室など本格的に学んだことで、より面白くなってはまりましたね。

 絵もそうですが、私は色に惹かれるみたいです。自然の風景や街の風景など、季節の移り変わりの色の変化。自然が作り出す光と影はもちろん、人の表情も洋服も、すべて色ですよね。写真にはまったのも、きっと色に惹かれたんだと思います。

アンティークに終わりはない

色に惹かれるという感性は素晴らしいと思います。そういう意味では、「cocorobae」の心が映えるというのも「色」ですよね。心の色によって顔色、表情が変わります。仕事をする中で「色」を感じることはありますか。

 骨董市を巡っているときに感じます。骨董市にはたくさんのお店が出店されていて、どのお店も個性的なんですよ。商品も店主も個性的で、話を聞くだけで愉しいです。骨董市はいろんな色が集まる楽しい場所ですから、ぜひ行ってみてください。

それは楽しそうですね。楽しそうに話される美雨さんを見ていると、仕事を楽しんでいらっしゃる様子がわかります。

 ありがとうございます。いつも父から「仕事は楽しんでやりなさい」と言われているからでしょうか。父自身、工夫しながら仕事を楽しんでいて、とてもいいお手本になります。

美雨さんにとって、今の仕事をしていて一番楽しいと思う瞬間はどんなときですか。

 骨董市を巡るのも楽しいですが、それ以上に楽しいのは、入手した古いモノの歴史を調べているときです。モノの背景や経緯などを調べると、人とモノのつながり、モノと人が歩んできた道のりなど、縦のつながりが見えてきます。モノによっては印やマークなどがついているものもあり、それらの意味を調べていると探偵になったような気分になって楽しいですね。

 調べているうちに、アンティークは慈しみそのものだと感じるようになりました。自分と出会う前に大事にしていた人がいる。その人が大切にしていなければ出会えなかった。そうやって大切にしていた人の心を大事にしたいと思いました。

 骨董市で、あるお店の店主が「今あるモノもいつかはアンティークになるのだから、アンティークには終わりがない」とおっしゃっていましたが、たしかにそうですよね。ある人からまたある人へ、大切なモノが受け継がれていく。これって慈しみの連鎖じゃないかと感動しました。

慈しみの連鎖ですか。いいですね。だとすると「cocorobae」は、慈しみの連鎖を生む場所でもあると思います。今後、どのように展開していきたいと考えていますか。

 今は「cocorobae」もネットショップだけですが、いつかは骨董市やマルシェなどに出店したいと思っています。もともと人が好きで人に興味があるため、人と人が交流できる市場の方が、よりモノの良さをお伝えすることができると思うんです。対面することで信用性も高まりますし、モノと人の距離も近づきますよね。そうすればサイトの方にも興味を持っていただけたりと、相乗効果が生まれるのではないかと思います。

 それともうひとつ。国内外問わず足を運んで買い付けにも行きたいですね。海外では現地の文化をまるごと味わって、その風土のなかで生き残ってきたものを紹介したいです。

 私は社会人としてスタートをきったばかりですし、「cocorobae」も始まったばかりです。たくさんの人やモノと出会い、いろんな感動を体験して、私も「cocorobae」も一歩ずつ成長できればと思っています。

(取材・文/神谷真理子)

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