説明しなくちゃわからないのなら一生わからない
サッチモの愛称で親しまれるジャズの巨人、ルイ・アームストロングは、やがて訪れる人間の感性の劣化を予測していたのだろう。それほどに現代人は手っ取り早く理解できる説明を求め、すぐに忘れていく。
人間の体の構造こそが真実を伝えている。歯の構造はどんなものをどんな割合で食べればいいかという教示であるし、脳が左右均等に分かれているのは、偏った使い方をするんじゃないという戒めだ。左脳(理性)と右脳(情感)をバランスよく使えれば、人間はうまくいくようになっている。
ところがどうだ。私の目に映る人の大半は左脳ばかり使って右脳を蔑ろにしている。そうではない人もいるだろうが、それはきわめて少数派だ。
その証拠に文学はますます軽視され、美術館に人は溢れても説明文ばかり読んでいる人が多い。人類の財産ともいうべきクラシック音楽をはじめから終わりまでじっくり聴くことのできる人は稀で、自然が織りなす風景よりスマホの小さな画面に夢中な人が多い。一日のうち、「ああ美しい、なんて豊かなひとときなのだ」と思える時間はどれほどあるだろう。
世の中にあまたある美しいものを、説明抜きで味わってほしい。心持ちが少しずつ変わっていることに気づくはずだから。
(250706 第881回)
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