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紺碧の将

おめでとう! ユッスー・ンドゥール

2017.09.17

 先日、電車に乗っていたら、正面の席に座っているオジサンが読んでいる新聞が目に入った。一面左側に、「○○賞受賞」とあり、その中に「ユッスー・ンドゥール」という字を認めたのだ。

 私はずっと視力が良く、若い頃は、電車の座席からプラットホームに掲示されている時刻表の数字まで読めた。還暦を目前にした今は、さすがにそこまでは見えないが、「いいものはくっきりと、そうでないものはそれなりに」見える。それが、「女性の敵」と言われている所以でもある。

 さておき、ユッスー・ンドゥールが新聞のトップ面に載るような賞をもらったということにとても驚いた。

 ネットで詳細を確認し、さらに驚いた。なんと、「高松宮殿下記念世界文化賞」を受賞したのだ。同賞は、「それぞれの分野で芸術表現を追求し、文化の発展に貢献してきた人」に贈られるという。

 ユッスー・ンドゥールといえば、鮮烈な記憶がある。1985年に発表された、ピーター・ガブリエルの傑作アルバム『So』に収録されていた「In Your Eyes」のエンディングで、忽然と現れた強靱でしなやかな声。フェイドアウトする前で、本来なら惰性で終わってもいいような部分である。わずか30秒ほどだったが、聴く者の心を惹きつけた。「だ、だ、誰だ。こいつは!」。世界中にいる音楽ファンの多くがそう思ったはずだ。

 その声の主こそ、ユッスー・ンドゥールである。名前のはじめに「ン」がつくことにも驚かされた。ちなみに、ピーター・ガブリエルという人は第三世界の異才を見抜く眼力を持っている。フランス国籍の黒人ドラマー、マヌ・カチェやカザフスタンのタイーなど、ガブリエルに見出された人は多い。

 ユッスーは1959年(私と同じ)、セネガルのダカールに生まれた。古くから伝わる音楽や思想を伝承するグリオ(語り部)の家系で、ピーター・ガブリエルの『So』が発売された年、『ネルソン・マンデーラ』で世界デビューし、その後『イミグレ』『ザ・ライオン』『セット』『アイズ・オープン』『ザ・ガイド』『ジョコ』『ナッシング。イン・ベイン』『エジプト』『ロック・ミー・ロッカ』などを発表し、世界中に熱心なファンを獲得していった。私もすべて持っている。

 07年、彼はタイム誌の「世界でもっとも影響力のある100人」にも選ばれている。

 

 世界デビュー盤が『ネルソン・マンデーラ』というタイトルであることからもわかるように、彼は〝社会派〟である。ネルソン・マンデーラといえば、南アフリカのアパルトヘイト政策を批判し、国家反逆罪で終身刑を宣告され、27年に及ぶ獄中生活を余儀なくされた人物である。

 スティーヴ・ジョブズが「Think Different」キャンペーンを行った時、彼はどうしてもマンデーラを映像に使いたかったが、実現しなかった。ピカソ、ガンディー、エジソン、マリア・カラスなど、Think Differentタイプの偉才を数多く紹介したそのキャンペーンは、広告業界にも身を置く私にとって、今でもレジェンドとなっている。

 ところで、私はケープタウンの沖合にある、マンデーラが収容されていたロッベン島に行ったことがある。それは想像以上の過酷な環境だった。草もあまり生えないような島で、彼は毎日重労働に服していたのである。

 ユッスー・ンドゥールがそのアルバムを発表した頃、マンデーラはまだロッベン島にいた。ユッスーはアフリカの民草を代表して、南アフリカの窮状を世界に訴えたのである。

 社会派の彼はその後も活動の手を緩めることはなく、2011年、セネガルの政治に異を唱え、音楽活動を停止して自ら大統領に立候補しようとするが、推薦人の数が足りなく断念。代わりに、対立候補を支援し、その人物が当選すると、観光大臣に就任した。

 私は30年来のユッスーファンである。作曲家の 池辺晋一郎氏が受賞の理由をこう述べている。

「のびやかな歌声にギターやアフリカの楽器を織り交ぜるなど、欧米のポップスとエスニック音楽を融合させた発言力の強い音楽。セネガルの語り部の家系に生まれた歴史を背負う一方で、世界全体に目を向けたまなざしも持っている」

 池辺さんは以前、「N響アワー」に出演していたが、その時のオヤジギャグが忘れられない。パートナーの檀ふみさんの困惑した顔が目に浮かぶ。池辺さんはクラシックだけではなく、いろいろなジャンルの音楽に意識を向けている人なのだろう。偏りのない人は信用できる。

 ちなみに、小欄の第681回でもユッスーを紹介している。興味のある人は見てください。

(170917 第752回 写真は授賞式のユッスー・ンドゥール)

 

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