うーにゃん先生の こころのマッサージ
HOME > Chinoma > うーにゃん先生のこころのマッサージ > 日々の生活が人をつくる

ADVERTISING

ココロバエ
ココロバエ

日々の生活が人をつくる

2020.09.21

第40話

 

行住坐臥 

 

「ただいまぁ」

 深夜、みゆが帰宅した。

「遅かったね」とうーにゃん。

「友だちに誘われて、セミナーに行ってきた。それより、なにか食べるものない?」

 みゆは冷蔵庫を開け、夕食の残り物を取り出した。最近、売上が減っているため、食費を切り詰めているという。

「どんなセミナーだったの?」

「簡単にいえば、自己啓発セミナー。朝からずっとだったから疲れたよ」

「自己啓発セミナーってどんなことするの?」

「いろいろだよ。部屋を暗くして、中島みゆきの曲を聞いてから誰かと一対一になって自分の生い立ちを言い合うとか。満たされなかった思いとかコンプレックスみたいなものとか、とにかく全部吐き出して相手に聞いてもらう。そのうち、泣き始める人もいて、ちょっと気持ち悪かった。200人くらい参加していたからね」

「みゆはどうだったの?」

「ん? だって、わたしはあまり悩み、ないもの」

「そうだね。パパにも、おまえは悩んだことあるのかって訊かれていたものね」

「ちょっとは悩んだことあるよ。パパは乙女心をわかっていないからね」

「でも、その血を引いているんだよね、みゆは」

「複雑な気持ちだね、そう聞くと」

「で、セミナーの話」

「たしかにいいことばかり言っていたし、なるほどねっていう話が多いんだけど、うさんくさいというか、次のコースにも参加しない人は前向きじゃないみたいな雰囲気をつくっているんだよね。友だちをたくさん紹介しないといけない雰囲気もあるし。それにね、トレーナーはみんな以前セミナーに参加した人なんだよ。それって、巧妙な手口だよね」

「ははーん、友だちや仕事関係の人に誘われると断れない日本人の特徴をうまく利用しているね。しかも、会場に行ったらみんな前向きで、次に進まない人はダメ人間扱いされる。上級コースを終了したら、こんどは人を指導するのが研修だと言ってタダ働きさせる。新興宗教みたいだね」

「でもさ、面白いのは、みんなその会場を出たら、あっという間にふつうの状態に戻ってる。通りにゴミを捨てたり、歩きスマホをしたり」

「クローク型だね。クロークにコートを預け、劇を楽しむときだけ別の人間になりきり、劇が終わって外へ出たらいつもの自分に戻る」

「うん、そんな感じ」

「それよりも重要なのは、ふだんの生活が自分をつくっていくという意識だよ。自己啓発セミナーなんかで簡単に変わろうとするから足元を見られて利用される」

「わたしね、研修を受けながら計算しちゃった。一人3万円だから、しめて600万円なり。ボロいよね。うーにゃんなら、どういう方法で自己啓発すればいいってアドバイスする?」

「日々の行いを正すこと。それしかないよ。行住坐臥(ぎょうじゅうざが)。わざわざ座禅とかしなくても、日々の一挙手一投足が修行だと心に刻んでていねいに生きる。それがいちばんの近道だと思う。そういうことを心がけて実践していれば、必ず同じような波長の人と出会う。そして互いに感化し合う。それが原則だよ」

「うーにゃん先生ならそう言うと思っていた。だから、次のコースはパスしたよ。友だちはしつこく誘ってきたけどね。それでも断ったから、なんとなく気まずい感じで別れちゃった」

「いいんじゃない。それっきりになったとしても、それまでの関係だったんだよ」

「そう思う。だって彼女、わたしのことを思って言っているというより、自分の成績になるから言っているというのがミエミエなんだもの」

「最近、そういう話が多くてたいへんだね、ニンゲンは」

「うん、案外ネコの方が気楽かも」

 と、そのとき、ドアが開き、パパの顔が現れた。

「え? オレの血を引いていることが誇らしいって?」

 どうやらドアの近くで聞き耳をたてていたようだが、肝心のところは聞き違えているパパであった。

 

本サイトの髙久の連載記事

◆海の向こうのイケてる言葉

◆多樂スパイラル

◆死ぬまでに読むべき300冊の本

◆偉大な日本人列伝

 

髙久の著作

●『葉っぱは見えるが根っこは見えない』

 

お薦めの記事

●「美しい日本のことば」

今回は、「虫時雨」を紹介。時の雨と書いて「しぐれ」。降ったり止んだり、時のまにまに降る雨のことを言いますが、日本人の耳にはどうやら、しきりに鳴く虫の声も雨の音に聞こえるようです。続きは……。

https://www.umashi-bito.or.jp/column/

 

 

ADVERTISING

田口佳史講座ライブ配信
田口佳史講座ライブ配信

Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

多樂塾

Topics

記事一覧へ
Recommend Contents
このページのトップへ