うーにゃん先生の こころのマッサージ
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ココロバエ
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大失敗のなかに成功の芽がある

2020.08.20

第37話 

 

春在一枝中 

 

 小一時間ほども過ぎただろうか。みゆはまだ突っ伏して泣いている。みゆの横でうーにゃんは思案にくれている。どうしていいかわからないのだ。

「いったい、どうしたんだ?」

 いつも明るいみゆがずっと泣いているのを知って、パパは扉を開けてうーにゃんに訊く。

「それがねえ……」

 うーにゃんは事情を説明した。つまり、こういうことだった。

 友人に勧められ、持っているお金の大半をある投資ファンドに投資したのだが、その会社が破綻したという。おまけに、仕事で単純なミスを重ね、最大のクライアントと取引停止になりそうだという。踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂とはまさにこのことだ。

「で、いくら損したんだ?」

 パパがそう訊くと、うーにゃんは小声でパパに教えた。

「えー!!!!! そんなに持っていたのかこいつは。それだけあったら、新車、現金で買えただろうが」

「パパ、今はそういう話じゃないよ。デリカシーなさすぎ」

 うーにゃんはため息をついた。

「そうかな」

 さすがにパパも場違いな発言をしてしまったことを恥じている様子だ。

「それじゃ、これから予定があるし、ここにいるのもなんだから、まあなんていうか、うーにゃんにまかせたぞ。いいな、うーにゃん」

「うん」

 パパはそう言いおいて、いそいそと外出した。うーにゃんとママは顔を見合わせてうなだれた。

 

 翌日、みゆは腫れぼったい目をして起きてきた。

「うーにゃん、昨日はありがとう。いっぱい泣いたら、スッキリした」

「よかったね」

 昨夜、うーにゃんはただ黙って、ずっとみゆの傍らにいたのだ。

 朝食のあと、みゆとうーにゃんは近くの公園を散歩した。

「うーにゃん、抱っこしてあげる」

「やったぁ!」

 木々の葉のすき間から雲ひとつない空が見える。

「空ってこんなに青かったんだね」

「雲の形も面白いね」

 ふたりはしばらく黙って歩いた。

「ねえ、みゆ。あれ、見て」

 うーにゃんは、指を伸ばして梅の枝を指した。

「ハハハハ、うーにゃんの指、おもしろい」

「うーの指じゃなくて」

 みゆはあらためてうーにゃんが指した枝を見つめた。

「梅でしょう? それがどうしたの?」

「気休めかもしれないけど、みゆはこの梅と同じだよ。ほら、芽がパンパンに膨らんでいるでしょう?」

「うわー、ほんとだ」

「春在一枝中(春は一枝のなかにある)という言葉があるんだけど、いちばん寒い季節なのに、芽が膨らんでいる。一本の枝に春があるっていうことだよ。みゆのなかにも春があると思うんだ」

「……」

「誘われてファンドに投資をするのが悪いとは言えないけど、儲け話にはそれなりのリスクがあるということを忘れていたというのも事実だよね? ふつうでは考えられないようなミスを何度も犯してしまったのは、どこかに心のゆるみがあったからでしょう? 今回のことはみゆにとって大きな代償だったと思うけど、これを価値あるものにするには、これから同じ失敗を繰り返さないってことだよ。それができれば、失ったものよりずっと多くのものを得たとも言えるしね」

「そうかあ……」

「いろいろな人の伝記を読んでいると、必ずなんらかの失敗をしている。そして、それをバネにして成功している。この世の中は、失敗しないと成功しないうようにできているみたい」

「じゃあ、わたしも成功するのかな」

「するよ、する。みゆは失敗を次に活かすことができる子だよ。うーが保証する」

「うーにゃんに保証されてもねぇ……」

 みゆはそう言ったあと、「やっぱり、うーにゃん先生だわ」と言いながら、うーにゃんに頬ずりした。

 うーにゃんは春の匂いがした。

 

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https://www.umashi-bito.or.jp/column/

 

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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