うーにゃん先生の こころのマッサージ
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ちからのある言葉
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感謝すれば、だれもが幸せ者

2020.07.30

第35話

 

知足者富 

 

「きょうで終わりだね」

 みゆとうーにゃんは、カレンダーを眺めながら、どちらともなくつぶやいた。202●年12月31日、大晦日である。

「みんなそろったか?」

 家族4人は厚着をして玄関を出た。

「目指すは明治神宮なり。ものども、進めぇ!」

 戦国武将になりきったパパは、まったくトンチンカンの掛け声をあげた。同じマンションの住人が遠巻きに通りすぎ、怪訝な表情で振り返った。

 大晦日、明治神宮へお礼参りをするのは一家の習わしだ。

 4人は砂利を踏みしめながら参道を進む。乾いた音が耳に心地いい。

 みゆとうーにゃんは間断なく喋っている。

「このまえ、美容室で面白い話を聞いたよ」

「どんな?」

「私を担当している人、沖縄の宮古島出身なんだけど、18歳の年の大晦日、初めて東京に出てきたときが大雪で、空から白い粉が舞い落ちてくるのをうっとりしながら眺めていたんだって」

「沖縄の人が初めて雪を見たら感動するよね」

「ところがね、しばらく見とれているうちに体が冷えてきて、これはいけないと思ったんだって」

「寒いのが苦手なうーなら風邪引いてしまうかも」

「それで、次の日、初詣に行って、健康でありますようにって願ったんだけど、なんとその日のうちに風邪をひいたんだって」

「ハハハハハ」

「自分都合の願掛けはダメだってそのときに悟ったみたい」

「いつもパパが言っているよね。願いごとには2種類ある。いい願いごとは世の中がよくなるように願うこと。そのなかに自分の幸せも含まれる。悪い願いごとは自分のことだけよくなるようにと願うことだって」

「そんなにいろんな願いごとをきいていたら、神様だって倒れてしまうよ」

「うーは、拾われてこの家に来てからずっと、大晦日のお礼参りに連れてもらっているけど、すごく素敵な習慣だと思うな。1年間、無事に過ごせたことに感謝の気持ちを伝えるって」

「うん。ふだんはトンチンカンなことばかり言っているパパだけど、それだけはまともだよね」

「なんだと! 無礼者はこうしてくれる」

 そう言うなり、パパは袈裟懸けにみゆを切る真似をする。

「うわー、やられたぁ」

 みゆは切られたフリをしてのけぞった。それを見て、ママは呆れた顔をしている。

「まったく、あなたたちよりうーにゃんの方がよほど大人だわ」

「ハハハハハ」

 

 大晦日は本殿のなかまで入れない。本殿前に囲いが設えられ、賽銭箱代わりになっている。4人は二礼二拍手一礼をした。

 参拝のあと、4人は表参道のカフェに入った。

「ねえ、パパ。どうしてうちは初詣をしないで大晦日のお礼参りなの」

 うーにゃんはカプチーノの泡を口の周りにつけたままそう言った。

「それは俺があまのじゃくだからだよ。みんなとちがうことをしろ。それが俺の原則だ」

「ちがうことをするとなにがいいの?」

「心もちがいいんだよ」

「へぇ〜、そうなんだ」

 うーにゃんはわかったようなわからないような表情をした。

「ほんとうはな、願いごとするより感謝した方が気持ちがいいからだよ」

「それわかる。うーも、いちばん気持ちがホッとするのって、ありがたいなあって思うときだもの」

「だろう? だいたい、人混みのなかをかき分けて、てめぇの欲望ばっかり神様に押しつけたって、神様が聞いてくれるはずがないじゃないか。それより、今年も1年間、自分たちを守ってくれてありがとうって感謝の気持ちを伝えた方がずっといい。この場合の『自分たち』というのは、この家族だけじゃない。いまこうして生きているすべての生き物のことだ」

「そう思えない人がいろいろ願いごとをするのかな」

「なにも願いごとのすべてが悪いと言っているわけじゃない。物事の順序を言っているんだ。まずは感謝が先ってことさ」

「それって、足るを知る者は富むっていうこと? 自分に与えられたものに満足し、感謝している人は富める人だって」

 みゆが口をはさんだ。

「おー、みゆにしては上等なことを言うじゃないか。どこで覚えたんだ?」

「この前、うーにゃんから聞いた」

 そう言って、みゆは屈託なく笑った。人間がネコに教えてもらうことを、なんら恥じていない。そのプライドのなさは、案外いいものかもしれない。

 

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