うーにゃん先生の こころのマッサージ

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ココロバエ
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言葉は凶器にもなる

2020.07.20

第34話 

 

一言既発駟馬難追と刀瘡易没悪語難消 

 

「なによこれ〜」

 みゆは素っ頓狂な声をあげた。慌てて、持っているスマホを落とした。

「どうしたんだよ、朝から」

「だって、これ見てよパパ」

 みゆはスマホをパパに見せる。

「なになに、『ネコの手も借りたい人のための人生相談。うーにゃん先生の肉球であなたの悩みのツボを刺激する』だと? なんなんだこれは?」

「この人生相談、初日から150万アクセスだって。うーにゃん、すごすぎるよ」

 ちょうどその頃、うーにゃんは右手を器用に使って顔を洗っていた。手の甲に唾液をつけ、それで顔を拭く、お決まりのあの動作だ。

「おまえ、いつまでそんなネコみたいなことやってるんだ。それより、これを見なさい」

 パパはスマホをうーにゃんの目の前にかざす。

「この前、人生相談の回答者になってほしいって言われたんだけど、もうアップされてるの?」

「そうだよ、うーにゃん。いきなり150万超えだよ。すごい、すごすぎる。またお金が入ってくるよ」

 みゆが興奮してまくしたてる。

「それはいいこと聞いたぞ。それで車のローンの残債が返せるかもな」

 パパはそう思い、しめしめという表情をした。

 

 あるコンテンツメーカーが配信するポータルサイトで、うーにゃん先生の人生相談が始まったのだ。

 

 ――こんにちは。うーにゃん先生。わたしは18歳、大学1年生です。わたしには幼稚園の頃から家族よりも仲がいい友だちがいます。先日、ちょっとしたことで感情的になり、その子がいちばん気にしていることを言ってしまいました。言った直後、いけないと思ったのですが、あとのまつりでした。それ以来、わたしに会っても口をきいてくれないし、目も合わせてくれません。

 うーにゃん先生、わたしはどうしても彼女を失いたくないのです。どうすればいいでしょうか。アドバイスをお願いします。

 

 それに対するうーにゃんの答え。

 ――それは取り返しのつかないことをしてしまいましたね。相手が最も気にしていることがどういうことなのかわかりませんが、それをあえて口に出に出してしまった代償は少なくありません。

 禅の言葉に「一言既発駟馬難追(いちげんはっすれば、しめもおいがたし)」というものがあります。駟馬とは四頭だての馬車で、今でいえば高性能のスポーツカーのようなものです。ひとたび言葉を発してしまったら、どんなに早い乗り物でも追いつくことはできないという意味です。「刀瘡易没悪語難消(とうそうはぼっしやすく、あくごはきえがたし)」という言葉もあります。刀の傷はやがて癒えるけど、言葉による傷は消えないという意味です。

 わたしも以前、仲良くしていたシャム猫に『あなたのような雑種にはわからない』と言われ、半年くらい立ち直れなかったことがあります。彼女はすぐに謝ってきたし、わたしも許したのですが、結局、彼女とはそれっきりです。

 あなたの失言を挽回するには、そうとうの努力が必要です。まず、言葉だけでは修復できないと思った方がいいでしょう。あなたの言葉は軽いと実証してしまったのですから。その替わり、できることをじっくり考えてください。

 これでは回答になっていないと思うかもしれませんが、わたしはこれが最良の回答だと信じています。わたしが授けた方法を実行しても、あなたの信用が回復しないことを知っているからです。

 じっくり考えて、あなたなりの答えを探してください。答えが見つかったとき、あなたはひと回り大きな人間になっているはずです。うまくいけば、彼女との関係修復ができるでしょう。もし、うまくいかなくても、今後二度と同じような過ちを犯すことはなくなるでしょう。

 

「これ、ほんとうにうーにゃんが書いたのか」

 パパは感心した面持ちでそう言う。

「そうだよ」

「おまえにシャム猫の友だちなんていなかったじゃないか」

「それ、パパに言われたことだよ」

「えええ!!!!! オレ、そんなこと、言ったかなぁ」

「言ったよ、パパ。悪語は消え難しだからね」

「面目ない、うーにゃん、オレが悪かった。このとおりだ、許してくれ」

 パパはがっくりと肩を落とし、うーにゃんに頭を下げた。

 

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◆海の向こうのイケてる言葉(新コラム)

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◆「偉大な日本人列伝」

 

髙久の著作

●『葉っぱは見えるが根っこは見えない』

 

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https://www.umashi-bito.or.jp/column/

 

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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