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ちからのある言葉
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どんな日も〝いい日〟につながっている

2020.07.10

第33話 

 

日々是好日 

 

 テレビ、新聞、ネットのニュース。よくもまあ、こんなに悪いことをする人がいるものだと呆れ返るくらい、世の中は「悪いニュース」があふれている。

 みゆとうーにゃんは、ある事件について話している。繁華街で次々に人をナイフで刺し、6人に重軽傷を負わせたという事件だ。容疑者は「嫌なことばかり続いていたからムシャクシャしていた。だれもでいいから刺したかった」と言ったという。

「どうしてこんなにムシャクシャしてしまうんだろう」

 ムシャクシャしたことがないみゆには、どう考えてもわからない。うーにゃんも同じ。基本的にネコはムシャクシャしないからだ。

「『日々是好日』っていう映画があるじゃない。樹木希林さんの最後の映画。うーはまだ観ていないけど、タイトルがいいよね。にちにちこれこうじつ。いい日も悪い日もそれなりに意味がある。いっさいのこだわりをなくせば、みんないい日になるって」

「わたしもまだ観ていない。こんどいっしょに観に行こうか」

「いいね。みゆのおごりだよ」

「ずるい! うーにゃんはたくさん仕事があって、たくさんお金持ってるじゃない」

「でも、全部パパに預けてる。ネコに金を持たせておくとろくなことがないって」

「えー? パパに? たぶんネコババしちゃうよ。この前、車買い替えたいって言ってたもの」

「それは困るよ。それにしてもネコババって、いやな言葉」

「語源はなんだろうね?」

「それより、日々是好日の話」

「いい日も悪い日もそれなりに意味があるって言ったよね」

「うん。いいとか悪いとかって、結局、こだわりなんだよ。ほんとうはいいも悪いもない。たとえば、天気だってずっと良かったらどお? カラカラに乾いて植物が枯れたり、水がなくなったりするでしょう? 晴れの日もあれば雨の日もある。だからバランスが保たれている。台風だってそうだよ。老木が倒れたり、地面に溜まった落ち葉が吹き飛んでいくことでまた新たな生命が生まれてくる」

「たしかに。病気をしたことで健康への関心が高まって長生きするっていう話も聞くしね」

「要は、一見マイナスのことに見えても、それをどう活かすかでその後が変わってくるということだよ。突き詰めれば、いいことも悪いことも、いい結果につながるっていうことだよね」

「すごく楽天的でお気楽そうに思えるけど、そう考えれば、嫌なことなんてなくなるね」

「そう。まして、ムシャクシャして人を刺すだなんて」

 そこへパパの大きな鼻歌が聞こえてきた。

「パパ、帰ってきたみたいよ。お金のこと、言った方がいいよ」
「あ、パパ。おかえりなさい」

「おー、うーにゃん。相変わらず三食昼寝付きでお気楽そうな顔してるな」

「それよりもパパ、この前預けた55万円、返してくれない?」

「あれはオレが預かっておくって言っただろ。なくしたらどうするんだ?」

「なくさないよ。うーはお金持って外出しないもの」

「空き巣に入られたらどうするんだ?」

「ここ、セキュリティがしっかりしているから空き巣が入ることはないよ」

「誰かにネコババされたらまずいだろ」

「だから言ってるんじゃない」

「なんだ、おまえ。オレがネコババすると思ってるのか。車の頭金が足りないから、飼い猫のお金をネコババするとでも思っているのか」

「頭金、足りないの?」

「……、そ、そう言われれば、そうかな」

 急にパパの表情が曇り、弱気な口調になった。

「ママに叱られたんでしょう?」

「うん、まあな。最近、デカイ買い物ばかりしているからな」

「そういえば、最近、伽羅を買ったよね」

「友だちが香木をたくさん持っていて、つい」

「良寛さんの掛け軸も買ったんでしょう?」

「友だちが画商で、つい」

「ピカソのデッサンもパパが買ってきたんでしょう?」

「友だちに誘われて、オークション会場に行って、つい」

「わが家は火の車だって、この前、ママが言ってたよ」

「……頼む、うーにゃん、あの55万円を貸してくれ。車が来たら、好きなところへ連れて行ってやるから」

 そう言って、パパは頭を下げた。

「ツメをたてるからうーにゃんはゼッタイ車に乗せないって言ったのはだれ?」

「それは今すぐ撤回する」

「しかたないなあ……」

 なにごとも転じて良くなることがあるにちがいないと思い、うーにゃんは「いいよ」と言い、日々是好日と心のなかで念じた。

 

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●『葉っぱは見えるが根っこは見えない』

 

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