うーにゃん先生の こころのマッサージ

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美し人
ココロバエ

時が解決してくれる

2020.06.20

第31話 

 

春来草自生

 

「たいへんなことになったの」

 パパが帰宅するとママが小走りに玄関へ行き、慌てた様子でそう言った。

「なんだよ、いきなり」

「さっき官房長官から電話があって……」

「官房長官って、あの……ス、ス、スがつく官房長官か?」

「そうなの」

「まさか本人じゃなくて秘書からだろう?」

「それが、あの官房長官からなの」

「で、用件は?」

「うーにゃんを政府が特別表彰したいって言うのよ」

 えー!!!

 パパの声が二オクターブ裏返り、のけぞった拍子に、後頭部を玄関の扉にぶつけた。

「うーにゃんを? どうしてまた」

「一億総活躍社会のお手本だって言うのよ。ネコなのに働いて税金を納めているのはうーにゃんだけだって」

「そりゃそうだろう。で、うーにゃんにはそのことを言ったのか?」

「もちろん、伝えたけど……」

 そのとき、うーにゃんがのっそり現れた。

「よー、うーにゃん、出世したもんだな。日本政府がおまえを表彰したいんだとよ」

「う〜ん、でもあんまりうれしくないよ。ママは首相官邸での表彰式に裸じゃいけないって言うけど、第一、うーは着るもの持ってないんだもの」

「そうだなあ、おまえもいちおうレディだし、素っ裸で出席するわけにはいかんだろ」

 はたしてネコが服を着ていない状態は「素っ裸」なのかどうか、うーにゃんはしばし黙考したが、結論は出なかった。

 夜、みゆが帰ってきてから、うーにゃんの特別表彰のことで話は盛り上がり、みゆがSNSで発信すると、お祝いのコメントがわんさか届いた。

「みゆ、うーにゃんのことを広めるのはよしなさい。ここに人が押し寄せて来るかもしれないから」

「そうよね、うーにゃんはどこに住んでいるのかって話題になるだろうし、ご近所迷惑になるし」

「それに、うーもあんまり有名になりたくないよ。この前もみゆと散歩していたら、通りがかりの人から握手を求められたもの。有名になることは不自由になることだってパパがいつも言っているけど、そのとおりだと思う」

 

 ニュースにうーにゃんの顔がアップで映しだされた。政府がうーにゃんを特別表彰することに決まったと報じている。官房長官が記者会見で説明している姿も映った。

 その後、ニュースキャスターは、うーにゃんが「先生」として活躍していること、とりわけネットでの人生相談はアクセスが前代未聞の数字を記録していると報じている。

 人生相談の一例として、自分の友人に彼氏を奪われた23歳の女性からの相談が紹介された。彼女は、それ以来、友人に対する憎しみが高じて、なにも手につかないという。

 それに対するうーにゃんの回答も紹介された。うーにゃんはこう書いている。

 ――あなたはとてもいい体験をしましたね。恋愛はいいことばかりじゃありません。だから、ニンゲン的にすごく成長できるんです。「春来たらば草おのずから生ず」という言葉があります。時間がたてば、おのずとなるべき状態になるという意味です。あなたの今の苦しみはすぐには消えません。でも、時間がたてば、「どうしてあんなに悩んでいたんだろう、憎しみに支配されていたんだろう」って思えるはずです。そのときは、あなたがニンゲン的に成長したということです。魅力がある人は、必ずと言っていいほど、つらい恋愛体験をしています。あなたもそういう人になれるチャンスをつかんだのです。

 

 キャスターがうーにゃんの回答文を読み上げると、ママもみゆも大笑いした。パパは腹をかかえて床に倒れる始末笑。

「なにをえらそうに! おまえ、恋愛したことあるのか?」

「そうだよね、生まれてすぐ、田んぼのあぜ道に捨てられて、それからずっとこの家にいるんだもんね」

 みゆも続けた。

 うーにゃんは、下を向いてぶつぶつ言っている。

「でも、すごいじゃない。まるで自分が体験したかのように答えているんだから」

 ママの助け舟は泥舟だったようで、うーにゃんはますます沈んでいくのであった。

 

本サイトの髙久の連載記事

 

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髙久の著作

●『葉っぱは見えるが根っこは見えない』

 

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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