うーにゃん先生の こころのマッサージ
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ココロバエ
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いいことは時間をかけないと広がらない

2020.05.31

29話

 

好事不出門 悪事行千里

 

 家族そろって近くの公園へ行き、バスケットランチを楽しんだ。食後、芝生の上に寝転んでいるうち、みゆはうとうとしてしまった。ふと隣に目をやると、うーにゃんがすやすやと眠っている。ネコはいつも周りを警戒しているため、3時間くらいしか熟睡しないと言われるが、うーにゃんは大の字になって無防備に眠りこけている。大物の風格である。

「おい、見なよ、このあけっぴろげな姿。写真に撮ろうか。インスタント映えしそうだぞ」

「パパ、インスタントじゃなくて、インスタだよ」

「そうか。……照れるなあ」

 ここは照れる場面ではないのに、と思いつつ、みゆは言葉を飲み込んだ。

 パパの大きな声でうーにゃんは目をさました。

「あ、パパ。いま、うーは夢を見ていたよ。せっかく作ったエースコックのワンタンメンをだれかに食べられちゃったの。結局、犯人はパパだってわかったから、思い切りツメでパパの顔を引っ掻いたの。そしたら、パパの顔に赤いシマシマの線ができちゃった。すごくリアルな夢だったよ」

「なんだ、ひどい夢だな。うーにゃんはワンタンメンも好きなのか」

「うん。この前、初めて食べたけど、おいしかった」

「そうか、ママ。こんどのうーにゃんの誕生日にワンタンメンを作ってさしあげなさい」

「はいはい」

 その後、4人はいつものように周囲のゴミ拾いをして帰宅した。

「ねえパパ。いいことってなかなか広がらないよね」

 ゴミを分別したあと、みゆがパパに言った。

「なんだ、やぶからぼうに」

「だってさ、私が仕事でお世話になっている人が毎朝、道路のゴミ拾いをしていて、いっしょにやってくれる人を募集しているんだけど、なかなか増えないんだって。それどころか、ゴミ拾いをしているところにゴミを捨てる人もいるらしいよ」

「なるほど、そういうことか。この前、ちょうどうーにゃんとそういう話をしたばかりだ」

「うん、パパと話したね。好事不出門 悪事行千里(こうずはもんをいでず、あくじはせんりをゆく)って」

「なにそれ、また禅語?」

「うん。いいことはなかなか世間に広がっていかないけど、悪いことはあっという間に広がっていくという意味だよ」

「たしかにそうかもね。だって、SNSで一気に拡散するのって、だいたいネガテイブなことだもの。だれがこんなことをした、こんなことを言ったっていう話ばかり。ときどき美談も広がるけど、悪いニュースの方がずっと多いよ」

「で、集中砲火にあって炎上というわけか」

「この前、炎上したタレントも、もとはといえば政治的な発言をしたからだよね。それで一気に燃え広がった。けっこう、まっとうな発言だと思ったけど、気に入らない人にとっては放っておけないみたい」

「大衆はつねにいけにえを求めているからな。だれかをスケープゴートにして、みんなでいじめてスッキリする。これは人間に限らず、あらゆる生き物に共通する本能だ。それに、他人の不幸は蜜の味っていうだろ。いじめられている人を見て可哀想と思う人もいれば、ほくそえんでいる人もいる。どっちが多いかといったら、ほくそえんでいる人じゃないかな」

 パパの発言のあと、うーにゃんが言葉を継いで話題を元に戻した。

「いいことはなかなか広がらないという話だったけど、それって裏を返すと、時間をかければ広がっていくということなんだ。この前、パパの書斎にある本を読んでいたら、イエローハットの創業者の話がでていたよ」

「鍵山さんか」

「カー用品業界って、それまであまりマナーが良くなかったらしく、鍵山さんは毎朝掃除をすることによって社風を変えたいと思ったらしいんだよね。社長みずから来る日も来る日も掃除を続けた。毎朝社用車を洗ったりね。それなのに、社員はだれも手伝ってくれなかったって」

「そうらしいね。オレの知人が鍵山さんと親しいんだけど、そんな話を聞いたことがあるよ」

「でも、10年過ぎる頃からぽつぽつと手伝ってくれる社員が現れた」

「10年もかかってようやく?」

 みゆは目を丸くして、驚いた。

「そう。それから10年たつと、こんどは社外の人も参加するようになって、気がつくと、掃除の話を講演してほしいという依頼が殺到するようになったんだって。今では鍵山さんの活動は世界にまで広がっているよ」

「掃除をするようになってからその会社の業績が伸びて、ついに株式上場したんだから、話を聞いてみたいと思うだろう」

 パパは腕組みをして、考えごとをしている。

「オレが鍵山さんだったら10年も我慢できないな。そんな薄情な社員どもなら、まとめてゴミ箱行きだ」

「パパ、それはちがうよ。鍵山さんはだれかに手伝ってほしいとか、人から評価してほしいから掃除を続けていたわけじゃないと思うよ。自分が手本を示せば、いつか周りも変わると思いながら続けたんだよ、きっと」

「なるほど。人の評価は眼中になかったということか。わかったか、みゆ?」

「えー! どうしてこっちにくるわけ?」

「おまえは結論を急ぐ癖があるから言ってるんだ。いいことが世の中に広がっていくには、時間がかかるということだよ。わかったな」

 いつも結論を急ぐのはパパなんだけどなあと思いつつ、みゆは「わかったよパパ」と言った。

「よーし、いい子だ」

 パパは満足そうな笑みを浮かべてみゆの頭をなでた。

 

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髙久の著作

●『葉っぱは見えるが根っこは見えない』

 

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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