うーにゃん先生の こころのマッサージ
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道具に振り回されない生き方

2020.04.30

第26話 

 

主人公 

 

「まさしく、隣の芝生はきれいに見える、だね」

 うーにゃんは読んでいた新聞から目を離し、つぶやいた。うーにゃんは起き抜けにモンプチを一袋食べ、温めのカフェオレを飲みながら新聞を読むのが習慣だ。

「どうしたの? やぶからぼうに」

 みゆが訊くと、うーにゃんは新聞をみゆに差し出し、「ここ読んでみて」と言った。

 人生相談のコーナーだ。投書の主は20代前半の女性。実家暮らしでアルバイトをしている。交際している人がいるが、あまり熱が入らない。時間をもてあまし、ついスマホに手が伸びる。気がつけば3時間くらい過ぎていることが何度もある。そのたび他人の生活が羨ましくなり、自己嫌悪に陥る。なにか打ち込めるものを見つけようと思うが、どうしてもSNSに目が向いてしまい、気がつけば長い時間が過ぎている。そして自分は人に比べ、なにもできないと思い知らされ、憂鬱になる、おおむねそのような内容だった。

「わたしもスマホは手放せないからわかるよ、この気持ち。ときどきフェイスブックで大学の同級生の近況を見るけど、やっぱり羨ましいと思うことがあるし。うーにゃんはスマホを持っていないからわからないでしょう?」

「どうせ、ネコの指じゃ操作できないですよーだ」

 うーにゃんは、少しむくれたような言い方をした。

「ハハハハ、そうだよね。ネコがスマホをいじっているところなんて、見たことないもんね」

 うーにゃんはうなだれた。

「ごめん、許して。デリカシーのないことを言っちゃって」

 みゆはうーにゃんに向かって頭を下げた。

「それより、うーにゃんならどう答える? そのうち人生相談の回答者として依頼がくるかもしれないじゃない? 予行演習してみようよ」

 うーにゃんは一瞬にして気を取り直した。

「人と比べるのは意味がないとか、もう比べるのはやめなさいと言っても、それができなくて相談しているわけだから、ひとことで諭すのは難しいよ。スマホを取り上げるのもいい考えだとは思わない。なくなったらよけい欲しくなるから」

 うーにゃんはスラスラと言った。

「じゃあ、どうすればいいの?」

「スマホでなにを見ているかといえば、LINEかフェイスブック、ニュース、ショップサイトが多いみたいだよね。フェイスブックにアップする内容は、その人のハレの部分が多いから、それを鵜呑みにしても仕方ないよ。ほとんどはなんてことのない平凡な時間を過ごしているはずだけど、それはあえて出していないんだから」

「それわかる。インスタだって、その人のハレの部分だよね」

「そう。だから、そういうものを見るんじゃなく、まずは楽しく学べるサイトを見つけて、それをお気に入りに登録し、毎日読むという習慣にしたらいいんじゃないかな。たとえば、うーのことが書いてあるChinomaとか。そして読んで気づいたことをノートに書く。すると、いろいろなことがわかってくるし、それについてもっと知りたいという意欲も湧いてくる。教養を高めたり、思考を深められるサイトはたくさんあるよ。そうやって、主人公の地位を奪い返す。そうすれば、半年後にはずいぶん変わっているよ」

「主人公の地位?」

「そう。投書の人は、言ってみれば道具に使われている奴隷の身だよ。ほんとうは自分の人生の主人公は自分なのに、道具であるスマホが主人公になってしまっている。スマホは道具としてはすごい能力をもっていると思うけど、自分を振り回す王様になっては本末転倒だよね。うーは使っていないから、細かいところまではわからないけど」

「たしかにそうだね。自分が主役になって、うまく道具を使いこなす。それならできそうだよ。それにしても自分の人生の主人公かあ……。さすが、うーにゃん先生はうまいこと言うね」

「主人公って、もともと禅の言葉なんだよ。映画やドラマの用語じゃなくて」

「そうなんだ。わたしもときどき、自分がスマホに操られていると感じるときがあるんだけど、うーにゃんの言ったことを思い出して、気をつけるよ」

「パパのお友だちで、スマホを持っていない人がいるんだけど、その人の言葉がかっこいいんだ。『便利は楽。不便は楽しい』。楽と楽しいは同じ字を使っているけど、意味はぜんぜんちがう。楽することばかり考えていると、ほんとうに楽しいことがどんどん減ってしまう。でも、少しくらい不便でもいいとか、あるいは積極的に不便にしてしまうと、なにをしても楽しめるらしいよ。目当ての店をスマホに誘導されて行くよりも、自分の勘を使って、回り道しながら探し歩いて、ようやく見つけたときは感動するって。結局、日常には感動できる可能性がたくさんあるのに、便利ばかりを優先しているから、それに気づかないだけなんだよね」

「そうかあ、便利は楽、不便は楽しいかぁ。今日はいいこと聞いちゃった。うーにゃん先生、いつもありがとうね」

 うーにゃんは照れているのか、右手で頭を掻いている。

 その指と肉球ではスマホを操作することはできないと、あらためて思ったみゆであった。

 

本サイトの髙久の連載記事

◆「多樂スパイラル」

◆「死ぬまでに読むべき300冊の本」

◆「偉大な日本人列伝」

 

髙久の著作

●『葉っぱは見えるが根っこは見えない』

 

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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