うーにゃん先生の こころのマッサージ
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春風に舞うような叱り方

2020.03.31

第23話 

 

鉄槌舞春風 

 

 いつものように気持ちよさそうに眠っていたうーにゃんは、電話のベルで起こされた。振り込め詐欺に遭ってはいけないから電話には出なくていいとパパから言われていたうーにゃんだが、なんとなく勘が働き、受話器をとった。案の定、みゆからだった。

「どうしたの、みゆ?」

「うーにゃん先生、ちょっと聞いてほしいんだけど」

 うーにゃんは、先生と呼ばれ、身構えた。だいたい「先生」とつくときは相談ごとだ。

「先月からアシスタントの子がきているって言ったよね」

 少しずつ仕事が増えてきたみゆは、以前勤めていた会社の先輩の紹介で、社会人になったばかりの女子を雇うことになったと聞いていた。島根県出身で、地元の会社に就職したが、家族の事情で東京に引っ越すことになり、会社を辞め、いっしょに引っ越してきたという。

「社会人になったばかりの子だったよね」

「そう。それがね、なにを言っても要領が悪いっていうか、言ったとおりにやってくれないんだけど、そういう子って、どういうふうに指導したらいいの? 少し注意しただけで泣かれちゃって。わたしが悪者みたいで」

「その子、まじめに仕事に取り組んでいるんでしょう?」

「そりゃあね、先輩の紹介だし。そんなにヘンな子じゃないよ」

「ただ、仕事の仕方がわからないだけなんだね」

「そうかもしれない。でも、毎日毎日、叱ってばかりいると、こっちが疲れてきちゃう」

 電話の向こうで、みゆは泣きそうな声だ。

「で、みゆはその子が成長して、戦力になってもらいたいと思っているわけ? それとも、今すぐ辞めてほしいと思っているわけ?」

「そりゃあ、成長してもらいたい。すごくお世話になった先輩の紹介だし」

「それなら答えは出ているよ。みゆが変わらなきゃ」

「えー? だって、できないのはその子なんだよ」

「あのね、鉄槌舞春風(てっついしゅんぷうにまう)っていう言葉があるんだけど」

「また禅の話?」

「いいから聞いて。禅の言葉だから正解はない。常識にとらわれちゃダメととる人もいるし、自由な心を表していると言う人もいる。でも、うーはちょっとちがうとらえ方をしているんだ。叱るにしても、春風が舞っているかのようにしなさいということ」

「……」

「ただやみくもに叱っても、相手は萎縮するだけ。ここはみゆが成長しなければいけない場面なの」

「……」

「人の上に立つということはそういうことなの。今のみゆのレベルで判断しちゃダメ。その子の身になって考えてみなきゃ」

 

 電話の向こうで、みゆは一生懸命考えている様子だ。うーにゃんは、無言のなかにもみゆの心の動きを読んだ。

「みゆが社会人1年目のときって、どんな感じだった? その子よりずっとできてた?」

「ううん。わたしの方ができなかったと思う」

「ほら。そういうことを思い出して、その子に言ってあげてごらん。あなたはわたしが社会人のときよりもいいよって。でも、こういうところを直さないと、いつまでたっても変わらないからいっしょに頑張ろうねって」

「……」

「そうしたら、その子は、なーんだ、みゆさんもはじめはできなかったんだって気持ちに余裕が生まれる。それにみゆとの信頼関係も厚くなる。信頼関係がない状態でどんなに叱っても効果はないよ、人間はロボットじゃないんだから。感情の生き物なんだから。だから、ここはみゆが成長を求められている場面なの」

「わかった。うーにゃんの話を聞いていたら、その子のいいところが見えてきたよ。やってみる」

 みゆはうーにゃんの言うことは素直に聞く。うーにゃんは受話器を戻し、ふたたび昼寝の態勢に入った。

 うーにゃんの寝息は、春風に舞っているかのように軽やかである。

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Profile

髙久多美男

髙久多美男

(撮影:森 日出夫)

●1959年生まれ

●1987年、広告の企画・制作を営む株式会社コンパス・ポイントを設立

●2009年、『Japanist』を編集・発行するジャパニスト株式会社を設立(2019年1月、刊行終了)

●「遊び、学び、仕事は皆同じ」がモットー。すべからく本質を求める

■本は永遠の師匠

19世紀フランス文学から20世紀アメリカ文学、さらには現代日本文学。歴史(特に日本近代史)、あらゆる生活・芸術分野から政治・経済の分野まで、本には強いな愛着を示す

■No Music, No Life

あらゆるクラシック音楽と1950年代以降のジャズ、R&B、60年代以降のロック、ワールドミュージックなど、とにかく雑食

■生涯、美を求めたい

桃山から江戸にかけての日本美術、岡倉天心一派以降の近代絵画を特に好む。ヨーロッパの近代絵画など、こちらも雑食

■敬愛する歴史上の人物

尊敬する人物は大久保利通。ほかに幕末から明治にかけて活躍した男たち。戦国武将では武田信玄、戦後の政治家では岸信介

■思索の遊び

禅、儒学、老荘思想、マキャヴェリズムを組み合わせながら、独自の思想を構築中

■いやなもの

共産主義や日教組などの極端な左翼思想(極端な右翼も嫌い)、地球市民幻想、新興宗教

■その他

日常的に走る他、毎年夏、山に登る。体型はずっと変わらず。便利なことよりも美しさに価値を見いだす

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